『鴉』

鴉

 行方不明となっていた弟の足取りを追う主人公は、深い山によって囲まれた「地図にない村」に辿り着きます。「日本」から完全に隔絶されたマヨイガ的なその村を支配するのは、「大鏡」なる現人神による絶対的なルールと価値観です。いわゆる「閉鎖された村社会」が舞台の作品ですけれど、もちろんそれは単なる雰囲気作りのための舞台設定のみに留まってはいません。

 ダイナミックな仕掛けに重厚な大作感、素直に傑作だと思います。でも「麻耶にしては普通の傑作」とか言わしめてしまうところが麻耶さんの凄さ、ファンの贅沢さだなあと思います。麻耶さんの作品を何作か読んでしまうと、どうしても「来るぞ、来るぞ」と身構えてしまうんですよね。それでもなお、期待を超えるとまでは行かないまでも毎回何らかの衝撃の得られる作品を出し続けている麻耶さんには、驚きを感じずにはいられません。

 今回も例によって例の人が登場するんですけれど、普段のような挑発的で悪趣味な言動がなく、いたって真面目に振舞っていたのが新鮮でした。ただし表面上のおちゃらけがなくなっただけで、本質はいつも通りの"彼そのもの"です。それだけに、あの悪を以って欺瞞を断罪するその態度はより凄烈さを増していたようにも思えます。

 麻耶さんの作品には文字数のわりにとても読みやすいという印象があるんですけれど、人の感想を見て回ると「読みにくい」とか「序盤が退屈」とか言われていることが多くてちょっと意外です。最後まで読めば報われると分かっているから頑張って読むという感じでもなくて、普通にリーダビリティ高めに思えるのです。どこに読み方の違いがあるのか気になりますナゾベーム