「ニート」というあんまりと言えばあんまりな題材をネタとして消費せず、真正面から捉えようとした作品なのかなと思います。
探偵役としてこの作品の中心に君臨するアリスちゃんは、「美少女探偵」とでも言うべきものの一パターンです。いわゆる「常人ならざる知能を持った人間として描写され、人を食ったような話をしてはワトソン役をおちょくるのが趣味」というタイプ。『GOSICK』のヴィクトリカさんなんかも、まさにこの先例ですね。
観念的な物言いで話を煙に巻いたり、雑学的知識で主人公の揚げ足を取ったり、言動がどこぞのブロガーみたいだなあというのがアリスちゃんに対する最初の印象でした。ツッコマビリティの高い極論が大好きーみたいな。これには一種の安心感が感じられましたけれど、ある種の類型の「枠」の内側に収まってしまうもののようにも見えました。
その印象から抜け出してアリスちゃんの固有性が現れてくるのは、作品中盤、ひとつの事件によって物語が大きく動き出してはじめてからです。ここで描写されるアリスちゃんの「覚悟」とでも言うべき態度はなかなか肚の据わったもので、はじめて彼女の「核」というか行動原理のようなものが見えた気がしました。
行動原理という点については、脇役として登場する他のニートの面々にも同じことが言えます。この作品のテーマのひとつは、「ニートは社会的な人間と行動原理=ルールが異なる」という主張です。だからルールに合った目的さえ与えられれば、彼らは社会的な人間にも負けない能動的で劇的な行動を見せるのです。
物語後半で描かれるニートの人たちの活躍は、まさにこの「行動原理」に火が付けられた状態でした。アリスちゃんもまたそのニートの一人として描かれていて、彼女が美少女探偵である前にニートであるという造型はこの辺りからうかがい知れます。
あとこの作品、途中で結構えげつない事件が起こるんですけれど、その描き方がまた淡白なのが印象深かったです。出来事だけを見ると「あざとい」とすら呼べるような展開なのに、どうしてだか読者の感情を煽り立てるような描写が極力抑えられているような気がするのです。杉井さんにとって、これはお話が極力あざとくならないようにというひとつの節度のようなものなのかなあと思いました。