『アストロノト!』

アストロノト! (MF文庫J)

 とてもライトノベルっぽいライトノベルであったと思います。長所も短所も、この作品のライトノベル的な部分に起因しているという気がしました。「ロケットで宇宙に行く」と聞くと困難な状況を技術力で乗り越えていく学問燃え要素をまず最初に想像するんですけれど、実際はそういう要素は薄かったです。

 主人公の動機に関する仕掛けが、やはり一番の見所だったと思います。ただこれは仕掛けの性質上、主人公の行動する動機がどこにあるか作中で描写するのがなかなか難しくなってしまうという問題があって、お話を引っ張るのにどうにも苦労してたように思います。ちょっと無茶ぶりだったかなあという気も。

 魔法と科学、ファンタジーと月とロケット、政争や軍事問題と、いろいろ"詰め込んだ"作品になっています。個々の要素はお約束をそのまま配置したという感じで、あまり踏み込んだ背景まで作り込まれている印象はありません。「こんな社会があったらどうなるか」という空想実験的な方向への描写は避けられていて、軽く読める反面の違和感も生まれていました。

 そんなハリボテ感がこの作品にはかなり顕著なんですけれど、これをもう一歩二歩三歩突き詰めると逆に持ち味として成立するんじゃないかなとも思いました。中世ファンタジー文脈で鎧とか着てる騎士がその辺うろうろしてる"王国"が舞台なのに、一方で宙士のユニフォームが現代の高校生のカッターシャツやらセーラー服やらにしか見えないという浮きっぷりは、イラストレター段階のデザインであるにしても目を見張るものがあります。あと終盤に出てきたアルファベット四文字のアレとか。こっち方向ではっちゃければ、そのうちなんか凄いものが生まれるのかなあと思いました。