藤崎竜『屍鬼(1)』

屍鬼 1 (ジャンプコミックス)

 藤崎竜さんの新作が読めて私はとても幸せです! 小野不由美さん原作ホラーの漫画化。人口1300人の寒村で立て続けに起こる謎の自然死を巡るこわいお話。

 『封神演義』など過去の連載作品はいかにもジャンプ的で陽性なものが多かったですけど、実はネガティブで病的な作風もまた藤崎さんの得意とするところです。これまで短編作品でしか発揮されてこなかった藤崎さんのこういう作風が、本作では余すところなく発揮されていると思います。

 『封神演義』が美男美女揃い*1だったのを考えると、本作は一村まるまるの生活風景を描いているということで、子供から老人までとにかくキャラクターの幅が広いです。特におじいちゃんおばあちゃんの造形がいちいち面白くて、作品に妙ーな雰囲気を与えくれています。

 照れ*2なのか何なのか、藤崎さんはシリアスとギャグの境界がどこにあるか分からないような描き方をときどきします。「実は偶然にも孫の手を持っているのですが!」とか、ホラー描写のたった二つ前のページでもそういうことをわりと平気でやっちゃう人です。

 そういうところで作品世界に今ひとつ身が入りにくくなってしまうところはありますけれど、笑うべき部分と怖がるべき部分の境界を狂わされて奇妙な感覚に陥らされてしまうという効果も、一面ではありました。藤崎さんのヘンテコなギャグにある種のホラーとの親和性がないとも言えず、こういうわけわかんないものが混ぜ合わさって作品に名状しがたい雰囲気を与えているというところもあるのだと思います。

 ああ、あと兼正の連中がどうしても趙公明に見えて仕方なく……あわわわわ。

*1:いえ、あの連中も仙人だから設定的にはすごい高齢なはずなんですけど……。

*2:これは恋愛描写で顕著。