『天球儀 藤崎竜作品集3』各作感想2/2

 昨日の続き。

藤崎竜作品集  3 天球儀 (集英社文庫―コミック版)

「DRAMATIC IRONY」

 けっこう解釈の難しい作品。善悪二元論に疑問を呈する構造になっていつつ、その外側をさらにメタな世界で覆っているという。主人公の名前が「メタファー」だったり、結果的に光と闇の間を取り持つことになるキャラクターの名前が「ジンテーゼ」だったり、この辺でこういう言葉を使いたがるのはまさに藤崎さん。

 既に*1封神演義」連載前ということもあり、絵柄の変化が目立ってきてます。が、真の衝撃は次の「SOUL of KNIGHT」。

「SOUL of KNIGHT」

 前作「DRAMATIC IRONY」の三年前に描かれた作品ですけれど、それにしてもここまで絵柄が変わるのか……と十年くらい前*2に短編集で読んだときもけっこうな驚きでした。ぱっと見の素人目でも分かるくらい骨格造形が変わってますし、表現的にもいろいろ変化が見られて、言われなければ同じ人の作品だとは気づけないくらい。コマの外に作者コメントがあったり、そういった「時代」を感じるような表現もこれ以前の作品ではよく見られます。

 敵役の魔導師アタウアルパ様がとにかく印象的。申公豹の原型的なキャラクターなんですけれど、一回見たら二度と忘れられない類のお顔であります。

「TIGHT ROPE」

 藤崎さんの考えるSFガジェットってこういう感じかー、という原風景的な世界であるのかも。近作ではあまり見られないんですけれど、この頃は恋愛とか自由についていろいろこっ恥ずかしいことが描かれることが多くて新鮮です。

 管理社会的なディストピア世界ですが、こういう「何者かに管理されてる」感は藤崎さんの作品に頻出する構造です。この辺の感覚は、形は違えど『封神演義』のラストの大オチなんかにも直結してる部分でありますね。

「ハメルンの笛吹き」

 藤崎さんデビュー作。画風がシュルレアリスム的? とか全然知識ありませんがそういう感じで、服の紋様ひとつ、雲の描き方ひとつに特殊なデザインがなされています。近作の藤崎さんでもところどころに奇妙な装飾が出てきたりしますが、それが全編にわたって、もっと細かく描き込まれている感じ。方向性としても、この頃は現在と異なるところが目指されているようにも思えます。

 お話としては、よくこれを少年漫画の賞に送ったなと思えるような奇妙なお話。いきなり出てくる超越者のイメージが、藤崎さんの世界観の原型的なものを伝えていて面白いかもしれません。このデビュー作の時点で藤崎さんの描き出す世界は明らかに特殊で、一人一世界を体現した作家さんなのだなあと強く感じるところであります。

*1:「既に」って言い方はおかしい……。

*2:つまり14歳くらいの頃。