『アムリタ(上)』

アムリタ〈上〉 (角川文庫)

 初吉本さん。少々スピリチュアルっぽい視点から語られる、日常の話。ここで「スピリチュアル」という既存の言葉を使ってしまうのはかなり乱暴かと思うんですけど、他の表現も思いつかないので、あくまで比喩として「スピリチュアルっぽい」という表現をしておきます。

認識のレイヤが違う?

 文章表現が面白いとか、感性が独特だとか、そういう言い方がどうもしっくり来ません。「ある対象を見た時の受け止め方が他人と異なる」というよりも、「見えているもの自体が違う」という感じ。意識を置いているレイヤがずれている。そこかしこで描写される「スピリチュアルっぽい」描写も、オカルト現象が起こっていると言うより、他人と異なるインタフェースを用いて異なる形で世界を表現している感じに見えます。何言ってるか自分でもよく分かりませんが。

貴族感

 ものすごいお金持ちの話というわけではなく、生活の描写を見てると平均的な経済状況に思えるのですが、なぜかすごく「感覚が貴族的だなあ」と思いました。強者が弱者を助ける「ノブレス・オブリージュ」な倫理観とは逆の、"社会に対しては一切の責任を負わない"たぐいの貴族感です。贅沢こそしていないものの、「生活のために働かなきゃ」という雰囲気はまるでない。気が向いたら長期間ふらふらと海外旅行に出かけることにも抵抗がなくて、そういう時に世間とのしがらみがどうこうという発想が出てこない人たちです。

 作中、多くの死傷者が生じた事故に登場人物が関わるシーンがあるのですが、その際、「死傷した赤の他人」に対する言及がまったくなかったのが印象的でした。自分の認識する範囲外の人/物をナチュラルにスルーできる、そういう種の自由さが本作の根底に流れていて、それは「意識の存在するレイヤの違い」と無関係ではないのかも、みたいなことを読みながら考えました。

 それがつまり何を意味するのか、まだちょっと納得のいく解釈ができていません。捕捉しがたい作品です。少なくとも、UFOや霊魂やらはオカルトだからどうこうというレベルで議論する作品ではない気がします。