文明シミュレーションゲーム『Civilization4』を始めたら4ヶ月廃人になってました記念レビュー

シヴィライゼーション4 デラックスパック

 ええ……ずっとやってたんですよ、ええ……。

 あまりのハマリ度に廃人を量産し、中毒患者の社会復帰支援団体*1まで存在する文明シミュレーションゲーム。ローマのカエサル、ロシアのスターリン、日本の徳川家康、インカのワイナ・カパック*2等、様々な地域・時代の中から文明と指導者をひとつ選び、世界に名だたる強国に育てていくゲームです。

 どんな文明を選んでも、最初は原始時代から始まります。棍棒もって狼とか蛮族を追い回しながら少しずつ領土を開拓し、新技術を開発して文明を発展させていきます。ピラミッドみたいな世界遺産を建てたり、他国と外交したり戦争したりしている内にやがて時代は現代を追い越し、最終的には戦術核戦争による世界征服やアルファ・ケンタウリ星雲への移住みたいな話まで選択肢に上がるようになります。

戦争

 日本統一を目的とする戦国ゲームなんかと違い、本作の勝利条件は世界征服に限られません。先進的な技術開発力をもって宇宙に入植するとか、文化芸術を花開かせて精神的全盛を達成するとか、宥和策・強硬策を駆使して外向的な勝利を達成するとか、軍事行為を最終手段とせずに勝利を達成する方法が、本作にはいくつか用意されています。

 また、戦争するにしても、軍隊を派遣してから「さあどのように用兵しよう」と戦術を競うゲームではありません。実のところ、戦争の趨勢は宣戦布告の時点でほとんど決まっています。何十ターンも先の戦争を見越して先進的な軍事技術を開発し、その技術でもって軍事ユニットを量産し、相手が防勢を整えきれないぎりぎりのタイミングで宣戦布告を発する。数百年スパンの戦略が勝敗を分けるゲームなのです。

 そのくらいの長期計画が必要になってくるので、戦争は滅多やたらにできるものではありません。戦争準備のために軍事ユニットを量産しはじめると、内政施設の建設がおざなりになりますから、国力もどんどん他国に追い抜かれていきます。そうやって準備した侵略戦争が成功すればいいのですが、もし失敗すれば開いた差を埋めるのは至難の業になるでしょう。

 もちろん、領土の広さはそのまま国力に繋がる*3ので、戦争はハイリスクハイリターンな方法です。実質、中世あたりで戦争に大勝して他国に倍する領土を獲得すれば、それだけでゲーム展開は非常に有利なものになります。ほんの一回の決定的な戦争をどのタイミングで仕掛けるか、そのチャンスを掴むために古代から様々な要素を駆使していくゲームだと言い換えることもできます。

 戦争がはじまった時点で趨勢はほとんど決していると書きましたが、それでも変な用兵をするとやっぱり負けちゃうので、「しょうもないミスをしないよう」神経を使う必要はあります。これがなかなか面倒な仕事で、敵領土を偵察しつつ軍事ユニットを治療・補充し、侵略目標都市を選定しながら何十ものユニットを移動させ……という一連の作業には、やはり膨大な時間がかかります。平時は数体の労働者を働かせたり内政施設を建てるだけでいいのに、戦争になった途端に作業が数倍に増えるのです。

 古代〜中世まで100ターン以上に渡る内政期間のプレイ時間よりも、ルネサンス期に行ったほんの10ターンの戦争の方が時間がかかった、なんて話はよくあります。世界征服を目指してがんがん戦争するとなれば、一プレイに30時間とかかかることもざら。一方、徹底的な内政プレイで文化勝利を狙えば、ほんの数時間でゲームが終わったりもします。人間工学的な意味でもリスクの高い、でもうまくやれば有効な手段だからどうしてもやってしまうのがこのゲームの戦争です。(今年出る続編のCiv5では戦争システムの大幅な変更があるらしく、軍事ユニットを量産して一ユニットずつ動かして……という作業が不要になるようです。これは大変楽しみですね)

内政

 つまり、戦争も結局は領土を広げて内政を促進させるために行うものです。そして戦争を行うためには、やはりまず内政で軍拡の準備を整えなければなりません。終盤になれば世界征服のために内政捨てて戦争一本、みたいなプレイもありえますが、それこそ軍事に傾注できるだけの国力を内政によって培った結果です。結局のところ、本作は(そのプレイ時間の比率に反して)内政がメインの作品だと言えます。

 現実と同様、侵略側が防衛側に勝利するには、相手よりも遥かに多い兵力が必要です。都市防御を削るためには一定数の攻城兵器を用意しておく必要があるので、計画性も必要になります。一方の防御側は、とりあえず最低限の兵さえ用意しておけば都市を守り抜けますし、攻撃側ほど兵種に気を遣う必要はありません。軍事ユニットの量産に傾注して技術開発がおろそかな好戦国より、内政に傾注してとっとと技術開発を進めた国の方が軍事技術で先を進んでいるようなことも往々にしてあります。

「好戦国が大量の槌鉾兵をかき集めて平和的内政国家を侵略しようとしたけれど、急場凌ぎで防衛に回った少数のライフル兵が反撃してきてボコボコに蹂躙された」みたいな話もないではなく。基本的に、内政こそが正道のゲームなわけです。内政が強い国は技術交換などで外向面でも有利であり、うまくいけば軍事強国と「防衛同盟」を結ぶことだってできます。そうなれば、大国の庇護下でぬくぬくと国家を運営していくことが可能になるので、軍事的備えの必要性はさらに薄れ、ますます内政に傾注することができるでしょう。


 内政は、細かくつつけばかなりやれることの多いシステムになっています。市民を都市のどこに配置するか? 労働者にはどの土地を改善させるか? そもそもどんな立地に都市を建てるか? 考えることは色々ありますし、その選択は積もり積もってゲーム展開を大きく左右します。

 とはいえ、そうやって「やれること」のほとんどはデフォルトで自動化されていたり、オプションとして自動化することが可能です。また、特殊な画面を開かなければ、普段は気にしなくていい項目も多いです。自動化を選択すればプレイヤーのやるべきことはぐんと少なくなりますし、低難易度のゲームならそれでも十分プレイしていくことが可能です。

 そのおかげで、膨大な選択肢とパラメータ群ををいきなり目の前に突きつけられた初心者プレイヤーが混乱して脱落する、なんてことはほとんどありません。初心者プレイヤーが最初にやるべきことは、次に獲得したい新テクノロジーを指定し、おせっかいな大臣のアドバイスを参考にして各都市の建築・生産物を選び、適当なタイミングで新都市を開拓していくことくらいです。

 ゲームのプレイに慣れてくれば、一部のオート設定を外して自分で操作したくなるでしょう。そうして全てのオート設定を解除し、ゲームシステムを完全に網羅する頃には、プレイヤーは中級難易度のゲームにも挑戦できる腕になっているという寸法です。このオート設定を利用したチュートリアルシステムはなかなか秀逸で、複雑なゲームシステムを自然にプレイヤーに理解させる手法としては、かなり理想的なものだと思います。

 で、初心者がオート設定つきでプレイすると3時間くらいであっさり終わって「手頃なゲームだな」と思えるのですが、次第に腕を上げて全ての数値を自分で支配しようとすると、プレイタイムが数十時間とかに膨れあがってくるわけです。「あれ……こんなはずじゃなかったのに」とか思っても手遅れです。実に、あくどいゲームですね!

外交

 軍事よりも内政だ! ということで、内政に傾注すれば結果的に戦争にも有利な土壌を築くことができます。ただし、技術で先進しているわけでなく、なおかつ軍備も貧弱な発展途上の段階では、どうしても危機管理が必要になってきます。本音としては、がんがん内政施設を建てて少しでも早く国力を充実させたいのですが、お隣の国には自国の二倍以上の軍事力がありますよ、みたいな報告が舞い込んでくると、やはり安心してはいられません。実際、そんな状態で宣戦布告を出されたら、都市の一つや二つはあっという間に占領されてしまうでしょう。でも防衛ユニットばっかり作っていると、いつまで経っても先進国に仲間入りできない……。悩ましい事態です。

 そこで、外交が重要になってきます。強国との友好関係を築いておけば、万が一宣戦布告された時に助けを請い、国家生存の可能性を高めることができます。また、そもそも友好的な国とは戦争関係に陥りにくいので、外交それ自体が潜在的な国家防衛力の向上に繋がるという話でもあります。また先述したように、軍事強国と「防衛同盟」を結ぶことができれば、自国内の防衛がザルでひたすら内政に傾注していても、そうそう宣戦布告されることはなくなります。

 ただし、外交を重視してひとつでも多くの国家と友好的な関係を、と八方美人を尽くすことはできません。AIの国同士にも友好関係、敵対関係があるので、片方と仲良くするともう片方が激怒する、みたいなことがしょっちゅうなのです。両方と仲良くしようとするのは一番悪いパターンで、この場合どちらからも睨まれてしまうようなバランス調整になっています。

 同宗教の友好国にも平気で攻め込んでくる、チンギス・ハーンアレクサンダーみたいな狂犬もいます。こういう手合いは近くにいると実に厄介なのですが、そのぶん扱いやすくもあります。なんせ好戦的な指導者なので、袖の下を渡せば他国への戦争依頼にも簡単に応じてくれるのです。「ほっとくと自分の国に攻めてきそうなので、戦争依頼して別の国に目を向けてもらう」とか、「戦争準備してておっかない隣国があるので、ちょっと相手をしてもらう」とか、やり方は色々あります。それで両国が潰し合ってくれればめっけものですが、最大の目的は「自国に降りかかりそうな戦火を他国に向ける」ことです。


 また、このゲームには技術取引の概念があり、自国の保有する新技術と他国の保有する未知の技術を交換することができます。二国で役割分担して自国が「銀行制度」を、他国が「機械」を開発し、研究完了の後に交換すれば、両方を自国で研究する場合と比べて単純に半分のコストで済みます。どんなに内政力があっても、外交の下手な国は多くの技術を自前で研究しなければいけないため、結果的に後進国になりがちです。たとえば、孤島大陸で戦争など一切なくぬくぬく平和的内政を充実させる経済大国よりも、戦乱に明け暮れつつも積極的な外交を行っている小国家群の方が、技術でははるかに先進しているのがこのゲームの常です。

 交換目的でマイナーな技術を獲得し、一ターンの間に複数の国と交渉して一気に技術躍進を図るのは、発展途上時の常套手段です。欲しい技術が他国の交渉テーブルに上がるまで、自国の新技術をあえて秘匿しておくような駆け引きも重要です。機を見ている内に別の国も同じ技術を開発して独占状態が崩れ、交換機会を逸してしまうのはよくあるパターンでしょう。あまり技術交換をやり過ぎると他国の発展スピードが早まって収集がつかなくなったりもします。そういった機微を読むこと、それ自体がこのゲームのひとつの大きな要素でした。

現実に対するシミュレーションとして

 本作は文明シミュレーションであり、歴史シミュレーションですが、そこに「事実に即した」という文言はありません。世界地図や国家の配置はスタート時点で一から自動生成され、「架空の惑星での架空の歴史」が綴られていくのがこのゲームです。ヒンズー教徒のスターリンが古代の斧兵部隊を率いて進軍を開始したり、儒教*4を信仰するヴァチカン教皇庁キリスト教徒に対する聖戦を発令して戦車部隊が突撃したり、ピラミッドや自由の女神像といった世界遺産が日本の首都・京都に乱立してたり、まともな歴史認識からするともう意味が分かりません。

 つまり、軍事や建築物、文化や偉人といった歴史上の様々な要素が、現実のそれとは全く異なる文脈でごっちゃ煮に現れてくるのが、本作の歴史性です。「歴史をなぞる」というよりも、「歴史をシャッフルする」感覚。既存の歴史が少しずつあらぬ方向に枝分かれしていく「ifの世界」がこの手のゲームの定番だと思いますが、本作はもっと荒唐無稽でアグレッシブなifが見られるゲームです。

 全体として、現実のくびきから解放された架空の歴史を再構築してくれるという点で、シミュレーションとしてはかなり自由度の高いゲームだと言えます。ただ、制作者自身が現代西欧という文化に属している以上、作品がどうしてもそこのところに縛られてしまうのもまた事実です。

 イギリスのチャーチルも、アメリカの先住民も、このゲームのルールの上では完全に対等*5な存在です。史実では西欧に敗れたアフリカの部族だって、このゲームの中なら世界に名だたる大国にのし上がることだって可能です。けれど、彼ら非西欧の勢力が国力をつけてのし上がる手段は、「現実の西欧の辿った技術発展を忠実になぞること」に限られます。本作のシステムが用意しているテクノロジーツリーは完全に西洋視点のものなので、「東洋や新大陸の文明が西欧と接触することなく独自発展したらどうなっていたか?」というifまではサポートしてくれないのです。

 もちろん、そういうことをやろうとすると全く別種の想像力やゲームプランが必要となってくるので、思想的な偏りがどうこう言うのは野暮だと思いますが、基本的に現代西洋の視点から作られたゲームなのは仕方ないところです。とはいえ、7つある宗教が完全に同等の(言い換えれば色分けを行うためだけの無味乾燥な)システムとして扱われているなど、ポリティカル・コレクトネス的な配慮はそれなりにされてると思いますけどね。

しめ

 とにかく滅法おもしろく、そして凶悪なゲームでした。とにかく、止め時が分からない。「もう一ターン、もう一ターン」とずるずる続けてしまうという面がまずありますが、そういうはまり方をしているだけなら、一ゲームが終われば嫌でもひと区切りつくでしょう。本作がより恐ろしいのは、ゲームが終わった後も「もう一ゲーム、もう一ゲーム」とさらなるゲームを開始してしまいたくなることです。

 たとえばRPGとかなら、ラスボスを倒してエンディングに辿り着くことで、一応の「クリア」目標を達成したことになります。でも囲碁や将棋の場合は、一ゲーム終わったからそれで満足、とはならないでしょう。プレイを繰り返して自分自身のプレイスキルを磨き、より格上の相手に挑戦していく。そういうタイプのゲームに終わりはありません。

 そしてこの『Civilizaiton』もまた、囲碁や将棋と同様に終わりのないゲームなのです。序盤の定石があり、中盤に展開があり、終盤に詰めがある。プレイを重ねれば重ねるほどゲームは奥深くなり、自分自身の向上心もさらに引き立てられていく。そういう求道的なゲームに終わりを見出すことは困難です。

 ただ、本作が囲碁や将棋と決定的に違うのは、一回のプレイ時間があまりにも膨大だという点です。囲碁や将棋なら、白熱した戦いでも2時間以内に終わることがほとんどでしょう。でも本作の場合、ゲーム時間を短縮する「迅速」オプションを選択していてさえ、クリアまでに十時間以上を費やさなければならないことがほとんどです。侵略戦争なんてしかけたら、それはもう泥沼の道。時間がいくらあっても足りません。しかも囲碁や将棋と違って本作はAIがいつでも相手をしてくれますし、たとえ勝利したとしてもさらなる上位レベルのAIが待ち構えています。ほんと、とどまることを知りません。

 私自身は、難易度「皇帝」をクリアした時点でひとまず無理矢理ひと区切りを付けることにしました。この上には更なる難易度の「不死」「天帝」が待ち構えているのですが、えっともうそれ人間じゃないですよね! ということで、日常に戻ってこられるぎりぎり最後の機会だと判断しました。魔王と天帝は相性だって悪いので……。

 とはいえ、繰り返しになりますが、面白いことにはとことん面白い作品なのです。この半年間、『Civilization』をやる代わりに他のことをやっていたら何ができたか……と考えるとちょっと青ざめるでは済まないので考えたくないのですが、とにかく世の中にはこんなに面白いゲームがあるのです。泥沼にはまるなら他人も巻き込んで、じゃなかった楽しいことは大勢の人と共有するのがいいと思うので、みんなこのゲームやればいいと思います。あと続編のCiv5も今年か来年出るそうなので楽しみですね。

*1:宣伝用のジョーク企画ですが。

*2:日本だと卑猥な発音になる例のヒトのパパ

*3:国土が広いほど維持費が高くなるので、下手な拡張政策をとると早々と行き詰まりますが。

*4:このゲームでは宗教扱いです。

*5:性格の特性や固有ユニットくらいはありますけれど。