詰めパズルめいたストイックなバトルが光る『サガ』シリーズ最新作-『サガ スカーレットグレイス』

 発売からだいーぶ時間がかかってしまったのですが、先日ウルピナ編でクリアしました。

 ラスボスは弱いバージョンと強いバージョンがいるみたいで、普通にプレイしてれば弱い方にあたるものと思っていたのですが、どうも条件が複雑らしく、私はいきなり強い方に当たってしまいました。挑戦可能になった時点ではぜんぜん歯が立たず、ヒーヒー言いながら10時間はパーティ強化のための寄り道に勤しんだのですが、そういえばこうやってラスボス直前で地獄の修行フェイズに入るのもサガの定番だったなあと懐かしく思いだせましたね……(こういうタイミングでのパーティ強化の旅が結構つらくなってて、あの頃と比べるとゲームやる体力が落ちたなあとも痛感しましたが)。

ざっとした感想

 思いきりエッセンスを切り詰めてきたな、という印象です。十数年ぶりの完全新作で、売り上げ次第でシリーズの今後の展開も左右される重要な作品ですから、さすがに今回は極力過去のシリーズを踏襲した無難な方向に振ってくるだろうと思っていたのですが、全然そんなことはありませんでしたね。ものすごいピーキー

 今回最も大きな比重が置かれていたのは戦闘そのものです。雑魚戦ですら考えることがかなり重く、毎ターン行動を吟味していくことになるため、長めのロード時間も相対的にあまり気にならなくなるほどでした。ひたすら戦闘を楽しみたい、雑魚戦もルーチン作業ではなくしっかり頭を使っていきたい、というプレイヤー向けにチューンされた内容だと思います。

 シナリオや世界各地のイベントにも、かなりのテキストや展開差分が用意されていると感じました。今回は同じ場所のイベントでも主人公*1によってかなり会話内容や展開が違ってくるようなので、ある出来事をいろんな視点から覗き見る、という趣向がより際立っているかもしれません。

 主人公が4人というのはシリーズ標準の7、8人と比べて少なめですが、これだけ一人一人の展開を細かく作り込んでいるならそれも納得。世界各地の街や名所などの特色についても相当設定が作り込まれてるっぽいですが、ゲーム内で得られるのは断片的な情報のみ、というところはシリーズお馴染みの切り口です。

 一方で、要素のオミットも大胆です。ダンジョンマップの概念が存在せず、全てがワールドマップ上で表現されている、ストーリー演出が止め絵の会話のみで構成されている、マップを歩き回ってイベント発生ポイントで戦闘してたまに街で装備を整えるサイクルをひたすら繰り返すシンプルなゲーム構成になっているなど、余分が徹底的に削ぎ落とされたストイックな作りになっています。予算や納期を調整関係で後から削ったという風ではなく、もう開発当初から選択と集中が徹底していたという感じでした。

戦闘雑感

 バトルの仕組みを毎回がらっと変えてくるサガですが、今回はシリーズ中でも特に異色で、いつにもまして歯応えがありました。本作では戦闘中の回復手段が非常に限られていて、回復量自体も死をいくらか先伸ばしにする程度なので、持久戦があまり現実的ではありません。ボス戦でも5ターンを過ぎる頃にはほぼ勝負の趨勢が着いていることがほとんどで、いかに自分たちが倒れ切る前に敵を殲滅するか、という短期決戦向けのバランス調整となっています。

 敵味方の行動や順序(タイムライン)はターン毎にあらかじめ見えるようになっていて、敵の攻撃属性に対応した割り込み技や、先制効果・遅延効果によるタイムラインの操作などを積極的に狙っていくのが今回の重要な戦術になっています。特に、タイムラインの条件次第で発生する「連撃」という追加攻撃のダメージとボーナスが極めて大きく設定されているため、うまく連続して発生させれば格上の敵を一気に突破することも可能です。逆に、うっかり敵の連撃を許すと雑魚戦でも一瞬でパーティが半壊したりするので、戦闘が常に緊張感を帯びるようになっています。

 ロマサガサガフロではキャラ毎にWP、JPといったリソースが設定されていましたが、本作はパーティに毎ターン供給されるBPを消費して行動する仕組みです。ミンストレルソングのBP制とも異なり、本作のBPはパーティ全体で共有するので、複数人で小技を撃つか、一人が大技を撃つかといった判断が生じてきます。戦闘が進むにつれてターン毎に使えるBPが増えていく*2ので、後になるほど戦闘が激化していく傾向にあり、この辺りも短期決戦向けの調整ですね。

 ターン毎に限りあるBPをやり繰りして戦う都合上、「その時点で持てる最大威力の大技をリソースが切れるまで打ち続ける」ような戦いにはなりません。属性特効、状態異常、タイムライン操作など、大抵の技に何らかの特殊効果があることもあり、終盤になっても大半の技に使いどころがあるのが嬉しいです。行動順を調整し、敵の行動を牽制し、孤立した敵を包囲して連撃を狙っていく、といった流れを限られたBPの中で実現できるか判断していくのは、パズルや詰め将棋にも似た楽しさがあります。

全体の進行

 ラスボスなどごくごく一部の固定敵を除き、イベント戦のボスも基本的にこちらの成長度に応じて種類や強さが変わるので、どこへ行ってもだいたい良い戦いができます。一方、明らかに格上の固定ボスにぶつかることがあまりないため、適正レベルを超えた敵に噛みついて激戦の末むりやり勝利したり、「こいつにはまだ勝てないから、他を回ってしばらく鍛えてから出直そう……」っとか判断する場面は少なくなりました(ただし、後述するようにラスボス戦を除きます。というか本作は上記のような要素を全部ラスボスに詰め込んだような構成になっている気がします)。

 また今回、強い装備品がゴロッと手に入ることは稀で、基本的には汎用素材を集めて鍛冶場で地道に強化していくスタイルです。イベント報酬として苦労して手に入れた装備が既に格下で使い道がない、といった残念な思いをしないで済む反面、「あそこに行けばあの強敵と戦えて、撃破すればあの装備が手に入るから……」とか攻略順序をあれこれ考える楽しみは薄くなったかもしれません(強い装備を揃えることを見据えた上級プレイなら、素材の収集順序で結構頭を使うことになるかもしれませんが)。

 基本的に向かった先の敵を倒して地道な報酬を得る、というストイックな報酬系が序盤から終盤まで続き、節目となるような強敵との戦いやレアな報酬などの飛躍ポイントが少ないため、ゲーム全体を通じたメリハリは弱いように感じられました。ひとつひとつの戦闘が楽しくてひたすら目の前の敵と戦っているのが幸せ、または逆に諸国を漫遊して様々なイベントに顔を出すのが報酬抜きに楽しい、と思える人向けの調整なのかもです。

シリーズ屈指かもしれないラスボス難易度

 と、ゲーム全体の展開は割と淡々としているのですが、ラスボス戦が異様に高い壁として立ちはだかってきます。先述したようにラスボスには弱いバージョンと強いバージョンがあり、私は弱い方とは戦えてないのでよく分からないのですが、強い方は本当にシリーズでも屈指の難易度を誇るラスボスだったのでは、と感じました(私がゲーム弱くなったのでなければ……)。

 ラスボスとはメインストーリーをある程度進めた段階で戦えるようになるのですが、特に強い方とぶつかるルートに入ってしまった場合、(よほど回り道して鍛えてきたとかでなければ)その時点では太刀打ちできない強さだと思います。ていうかこのラスボス、メインストーリーのラスボスのくせにプレイヤーをハメ殺して来るんですよ!

 ターン開始直後にほぼ確定スタン効果のある全体攻撃を仕掛けてきて、味方は何もできずターン終了。全体スタンが全体混乱になることもありますが、混乱した味方はパーティ全体で共有している貴重なBPを勝手に浪費するので、状況はもっと悪くなります。そもそも全体攻撃のダメージ自体が強力なので、初戦では本当に何もできないまま4ターンくらいであっさりと全滅、負けイベントで話が続くなんてこともなくそのままタイトル画面に戻されて唖然としました。

 そこから、ラスボス撃破のための試行錯誤が始まりました。先手を取られないよう装備で可能な限り運動性を上げたり、タンク役にアタッカーを庇わせる動きを徹底したり、状態異常対策を講じることである程度ダメージが通るようにはなってくるのですが、なかなかライフを削りきれません。そして運にも味方されてようやく倒せたと思ったら、HP全快で立ち上がる鬼のような仕様……(結局2回倒さないといけなかった)。

 さらに全滅とトライアンドエラーを繰り返し、うまい具合に連撃が出るなどの偶然に偶然が重なって何とか倒しきれたのですが、今度は正攻法でガンガン殴ってくる第2形態にボコボコにされて「ですよねー」って言いながら退却。やはり戦力そのものの底上げが必要と思い、パーティ育成のための諸国漫遊が始まりました。単純にパラメータを上げれば物理で殴れるタイプのボスにも見えないので、何をどう育てていくかの検討から育成が始まります。

 なんかラスボスなのにスタンが効くそうなので、運動性を上げまくって先手を取れるようにしたキャラにスタン効果のある技を連発させる方向で戦略を組み、各自スタン技のコストを下げるなどの育成を始めます。HPそのものも足りてない感じだったので、400台だったパーティの平均HPを600近くまで底上げ。一週間ひたすら雑魚と戦って、全体攻撃を1回多く凌げるくらい育ったところでリベンジに戻りました。

 スタンが効くといっても数回に1回程度なので、ハメ殺せる感じでは全然ないのですが、それでも敵の攻勢が和らぐのはありがたいです。やっぱり1回や2回のトライは勝てませんでしたが、戦闘直前のセーブが可能でリトライもしやすい仕様なので、とにかく回数を重ねて針穴に糸を通すような気合いで第1形態に勝利。そこからの戦いもまた大変だったのですが、耐性装備つけたり相変わらずスタン狙ったり何やかんや頑張って勝利。白熱した戦いでした……。

 特に第1形態のハメ殺しが顕著でしたが、それまでの敵が自分のレベルに合わせててくれてて「頑張ればどうにかなる」強さだった分、「対策を考えた上で育成しなければどうにもならない」ラスボス戦の印象は強烈でした。たぶん2周目以降は「どうやってこのラスボスに勝てるパーティを作っていくか」が最初からの目標になり、プレイ全体も引き締まるのかもしれません。

ままならないところ

 ちょっと1周しただけではうまく楽しめなかったのは、「ロール」の習得システムでした。

 ロールは特定の組み合わせの技を閃くと獲得できるパッシブスキルで、これを活用するには複数の武器種を持ち替えて系統の違う技を覚える必要があります*3。ただし、このゲームでは異なる武器種を同時に装備することはできません。ただでさえ雑魚戦すら厳しいところに主力以外の武器種を装備したメンバーが混じると戦闘の難易度が目に見えて上がりますし、主力武器の成長そのものも止まってしまうので、ロールの習得はかなり負荷の大きい作業になります。しかも技の閃きはランダムなので、運が悪いといつまで経っても目当ての技を覚えてくれない可能性があります*4

 わざわざ弱い武器種を装備して戦う、という行動は普通のプレイの中で自然と挙がってくる選択肢ではあまりないので、「ロールを獲得するためにあえて」行なう寄り道作業です。武器を持ち換えてから成果が出るまでのリードタイムもかなり長い*5上にランダム性も絡むので、結果的に「ロール」の習得システムだけ自然な成長の流れから浮いている印象になっていて、楽しみ方が掴めないというのが正直なところでした(単純に「色々な武器を使って欲しい」ということなのかもしれませんが……)。たぶん盾の代わりにサブ武器を装備できれば戦闘の余裕のあるタイミングでちょっと振るとかできて良いバランスに落ち着いたと思うので、ここどうにかして欲しかったな、という気持ちはあります*6

 まあロールは取らなくてもクリアできる上級者向け要素な感はあるし、過去のシリーズ作品でもキャラクターの最終的な完成形を見越して弱い術を使わせるとか回りくどい鍛え方してたことがよくあった気もするので、単に自分がそういうことできなくなっただけな気もします。いつの間にかシンプルな成長曲線と報酬系に慣れてしまったのかもしれない……*7

 あと細かいとこだと、本作の戦闘は5人パーティ+予備メンバーを交代で休ませながら回して戦う感じなのですが、素材も装備品も有限なので皆で使いまわしていく必要が(毎回しっかり戦うなら)あって、でも装備とか陣形を戦闘ごとに細かく調整するのは面倒だし時間もかかるし……とか、割とどうしようもないところで葛藤を感じることも多かったです。

 これはもうこういうゲームだから仕方ない、と割り切るべきところだし、でもゲームから足が遠のくのってこういう細かな億劫さの蓄積が直接の原因だったりするので、ままならんなと思います。欲を言えばUI周りで何とかしてもらえるとありがたいですが、それって開発の事情を斟酌しない無茶な要求だったりするし、際限がないですからね……。

 一口にサガシリーズのファンと言っても、サガのどういう要素に強く惹かれているかは個人差が大きいと思います。本作はそんな要素の取捨選択がいつも以上に激しいと感じました。この極端なところがまたサガらしいんですが、自分好みの要素にうまく焦点が当たっているかどうかによって、シリーズファンであっても感触はかなり変わってくるかもしれません。

 私の趣味としては、もう少し遊びがあるのが好みかもという気もしましたが、限界まで戦闘に重きを置いたこんなサガもなかなか面白い体験でした。多分サガのことだから次回作はこの方向性をさらに煮詰めて、なんてことにはならないし、また全然違うものを出してくれると思うので、これからももっといろんなサガがやってみたいという気持ちです(そのためにはお金がいるんでしょうけど……)。今回は10年待ったけど、次はもう少し早めに良い知らせが聞けると良いですね……。リメイク等含め、今後ともよろしくお願いします。

*1:場合によっては行動によってさらに分岐するみたいですし。

*2:HearthStoneとかやってる人ならマナをBPに置き換えてもらうと分かりやすいかも。

*3:いちおう一種類の武器種だけで覚えられるロールも各ひとつずつだけありますが

*4:私の場合、防御系のロールを覚えるため何人かに交代でサブ武器を持たせて戦っていたのですが、結局クリアまで目当ての技を覚えてくれなかったので、その分の苦労は無駄になったことになります。

*5:サブ武器のスキルレベルを鍛えるところから始めるので、5戦や10戦では多分終わらない。

*6:あえて同時装備できなくしたのにもそれはそれで理由があると思うので、そんな簡単な話でもないんでしょうけど。

*7:その割にFGOとかもっと面倒な育成を平気でやってるので人間の報酬系よく分かりませんね。