ザワ感(HiGH&LOW THE WORSTの感想)

 あまりDVDやBlu-rayを買い集めるタイプではないんですが、魔王城全会一致でこれだけは手元に置くことにしている『HiGH&LOW』シリーズ。本作はシリーズのレギュラーチームのひとつ「鬼邪高校」に焦点を当てたスピンオフですが、歴代作品の魅力を凝縮して洗練を極めた、現時点でのハイロー最高傑作です。

 映画としていろいろな凹凸は見られるものの、その難点を凌ぐ勢いと熱さを持つハイローシリーズですが、回を追うごとに洗練を重ね、3部作完結後に撮影された外伝『DTC - 湯けむり純情篇』で遂にひとつの理想形に到達したと思っています。低予算方向に舵を切った外伝なのでシリーズの売りである派手なアクションはないものの、もう「粗も目立つが」なんて言わせない練り込まれた構成。ぶらりと訪れた温泉旅館での人情騒動を、ハイローギャグパートのノリで面白おかしく、それでいて優しく細やかに描き出した名作でした。こんな完成度の高い映画をハイロー本編のスケールでやったらどうなってしまうんだ? と想像するとちょっと怖い気すらしていましたが、その期待に完璧に答えてくれたのがこのザワです。完璧です。

 完璧なのでもう語ることもない、とはならず、理想形を満たした上でその枠をはみ出していく圧倒的な熱量はハイローそのもの。ひとつひとつのシーンに感情が渦巻いて、アーッて思ってもすぐ次のシーンでまたワーッてなるのでとても思考が追いつきません。映画館で観た時は、ここにネットがあればリアルタイムで感情を吐き出しまくるのに……と思ったものですが、自宅で鑑賞しても画面から目を離せないので結局ツイートなんかしてる暇ありませんでした。

 本当に、一休みできるシーンが全然ないんですよ。別にひたすら見せ場が続くというわけではなくて、映画としての緩急はしっかりしてます。ただ、何気ないシーンでも、誰がどんな顔してるか、画面の隅で何やってるかとかが気になって目が離せないんですね。ハイローシリーズは登場人物がとても多くて、中にはセリフがいくつあるかという人もいます。でもセリフはなくとも画面にはしっかり映っていて、ちゃんとそれぞれがそれぞれの動きをしてキャラが立ってる。役者の裁量が大きい作品なので、一人一人の役者さんが自分の役を作り込んでいて、アドリブで思ってもみない表現が飛び出すんですね。そういう目で見ていくと、もうエキストラのモブ軍団すら何か物語があるように思えてきて(実際「自分はこういうヤツで……」ってそれぞれ考えてるんだと思う)、作品世界の奥行きってこういうところで醸し出されるのかなって思います。一回目はメインの登場人物に注目していたから、二回目はもう少し周りの人の様子を見てみよう……みたいな鑑賞のしかたがとても楽しいです。こういうところ、ちょっと舞台演劇なんかにも近いものがあるかもしれませんね。

 なお、本作は高橋ヒロシさんの漫画『WORST』とハイローシリーズのコラボ作品です。製作体制的に見ると、ハイローシリーズにWORST世界観のキャラクター(鳳仙学園)をお呼びしてゲスト出演いただいた形になるんでしょうか。シナリオをよくよく観察すると、しっかりハイローの物語をやりつつWORSTサイドも立てるよう、相当気が遣われていたように見えますね。対等に並び立つ好敵手としてどちらも負けず劣らずの印象で描きつつ、個々の喧嘩の勝敗としては完全に鳳仙に軍配が上がってた感じですし……。

 ハイロー世界に自然に溶け込みつつ強烈な印象を残していった鳳仙学園は、すごく良いかたちで作品を引き締めてくれたと思います。ハイローっていくつものチームが入り乱れる群像劇なので、どんどん視点が移り変わりながら話が進行していくのが楽しいんですが、今回は鳳仙という異質なライバルがいつも圧倒的な存在感を放っていたことで「ハイロー(鬼邪高)」「WORST(鳳仙)」というどっしりとした両軸が話の芯になって、多視点でありながら作品のまとまりがとても良くなったと感じました。ハイローサイドのスピンオフが発表されてすごく嬉しいんですけど、これはコラボ続編も期待していいんでしょうか……。