メギド72「メギドラルの悲劇の騎士」

 デカラビアが終わったばかりなのに矢継ぎ早にこんな高密度の話が来るなんて……。2021年怖ない? 年始から飛ばしすぎでは? とにかくよかったです。

 今回は五幕構成がうまく効いてましたね。まず第一幕で演劇キャラであるマスティマをイロモノ的な第一印象で登場させつつ、ヨニゲマンにまつわるちょっとアホみたいな不運エピソードを「安っぽい悲劇」としてなかば喜劇的な味付けで見せつけてきたのが巧みでした。少なくとも今回のシナリオで「悲劇」といえばこういうノリなんだな、という前提がうまいこと提示されてたと思います。単なる不運や勘違い、間の悪さや道化じみた人の愚かさなどが都合よく組み合わさって起こる、喜劇と隣り合わせの悲劇というか……(たぶん古典演劇とかのイメージだと思いますが、その辺は詳しい人が解説してくれてそう)。

 そうやって安い滑稽な悲劇を見せた上で第四幕に繋がるので、ヴェルドレのあのあまりにあんまりな状況もそういう悲劇の延長なんだということが分かるんですね。ステロタイプで使い古された「女の嫉妬」と大衆の愚かさに端を発する薄っぺらい悲劇、めちゃくちゃ趣味の悪いエピソードだったと思いますが、その悪趣味な悲劇観に苛まれ続けるのがマスティマの「個」だという話でもあるんですよね……。

 第四幕だけだと単なる後味の悪い話ですが、もちろんそこでは終わらず、それを踏まえた上での第五幕です。マスティマ、アマイモン、夢見の者などの演者が明確な意思をもって悲劇に抗い、さらに「観客」の立ち位置である二代目旅団長の思いまでが結実してようやく大団円に手が届いた、という流れがシナリオ全体の構図を綺麗に締めてくれてたと思います。巧いし、こうやって陣営の違う面々がそれぞれに流れを紡ぐことで望ましい結果に結びつけていくシナリオ運び、すごくメギドでしたね……。毎回この域のシナリオが飛んできたらちょっと困るかも、というくらい良いお話でした。

そのほか

  • 追放メギドが仲間になることを当然視するソロモンの態度には引っかかりを覚えましたが、ブネが「おまえの自由になるオモチャじゃねぇ」とかなりストレートに叱ってくれたので安心しました。いつもメギドの意思を第一に考えるソロモンの言動としては意外でしたが、ヴェルドレが祖父を知る相手だったことでちょっと気持ちが浮ついてしまったとかなんでしょうか。
  • 第四幕を古典的な悲劇として描く意義はよく分かるんですが、そこにあんなベッタベタな「女の嫉妬」を持ってきたのについては「またやってる……」とやや引きましたね……。三馬鹿イベントの昔から「愚かなモブ女のステロタイプ描写」を捩じ込んでくる謎の癖がメギドにはあったので、そういう意味では今回も別に意外ではないんですが……。毎回同じ手つきが感じられるのでライター陣の中に異様なこだわりを持つ人がいるのかもしれませんが、メギドという作品の中でこういう描写を頻出させる意味については一度整理してもらった方がいいのでは(特にこだわりとかのない単なる手癖ならやめた方がいいと思います)。
  • あんな目に遭った後でも迷わず自由の旅に飛び出すヴェルドレ、面白いを通り越してむしろ怖かったですね。これがメギドの「個」……。
  • せっかく本編がいい感じに終わったのに、個人シナリオ読んだら全然別件でマスティマがまた酷い心の傷を負っていたので、人の心はないのかと思いました。過去の悲しみを克服して新天地ヴァイガルドでようやく新たな一歩を踏み出したところなのに、ひどい……。マスティマのこれからの人生……。