『ゲット・アウト』

ゲット・アウト(字幕版)

ゲット・アウト(字幕版)

  • 発売日: 2018/01/19
  • メディア: Prime Video

 ジャケット絵見て「椅子に括りつけられた状況で2時間がんばるソリッドシチュエーションホラーかな?」と思ってたけど、別にそういうのではありませんでしたね……(冒頭で背後から襲われて気絶させられるシーンあったので、そのまま目が覚めたら監禁されてるパターンなのかと思った)。

 ホラーはホラーでも、極めてストレートな黒人差別を扱ったサスペホラーでした。昔ながらのプリミティブな黒人蔑視より数歩踏み込み、公平に接しているつもりで開口一番「黒人ならではの」みたいな礼讃をしてくる現代的な差別の在り方に焦点を当てていて、非常に居心地の悪い息苦しさがあります。周囲から孤立した一軒家とそこに集うコミュニティが舞台、というあたりから「田舎の因習」系ホラーの変形みたいな文脈を感じながら見てましたが、コミュニティの構成員が公的にも社会的地位の高い人間ばかりだったりして、雰囲気は独特ですね。

 終始漂い続ける不穏な気配が徐々に蓄積していき、もう限界というところで遂に現実的な「危害」へと姿を変える爆発力は見事。そこからのホラーパートはどこかシュールな映像が続いていく感じで奇妙なんですけど、最後の最後にまた流れが変わって、カタストロフ半分カタルシス半分みたいなクライマックスに突入するのが面白かったです。被害者と加害者、という話の土台が一瞬ムチャクチャになって、次に何が起こるか全く分からない状況になるんですよね……。

 最終的に後味は悪くないところに落ち着いて、ある意味元気の出るところもあったんですが、最後に助けてくれたのは結局彼だったわけで、横たわる断絶について安易な希望を一切示していないのが痛烈でもあります。後から振り返って重くのしかかるタイプの映画でした。

『幻想牢獄のカレイドスコープ』第3ゲーム 死刑囚:風華/ピエロ:火凛

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: Video Game

第3ゲーム

  • 死刑囚:風華
  • ピエロ:火凛
  • 断罪者:土麗美、水無

 死刑囚の風華が開幕からハイスピードで激昂、自分以外は全員無能と全方位を罵倒してヘイトを買い、これを受けた断罪者土麗美が日頃の風華への鬱憤を吐き出してそのまま風華拷問刑の流れに。火凛と水無は二人に呑まれる形で静か。今回のルートは割とシンプルな展開で、ボリュームもやや短めに感じました。

 風華は土麗美に心を開いていて、昔から彼女にだけは弱音や悩みを打ち明けていた一方、土麗美の方は風華のお姫様気質が腹に据えかねていたといった話。風華が水無を愛玩動物扱いしてたとか、まあそういう面は実際あったんでしょうけど、前回の土麗美の水無に対するあまりにあんまりな接し方を見てたので、土麗美……どの口で……という気持ちにはなりましたね……。自分も犬扱いしてたやん……。

 今回で風華と土麗美の間の感情が判明したことで、4人の好き嫌いの関係性がひとまず埋まった感じですね。4人とも、一番好きな相手に一番嫌われていて、それが上手いこと輪になっている模様。風華→火凛→水無→土麗美→風華と嫌悪の矢印が向いていて、これを逆向きにすると好きの矢印になるみたいですね(水無→火凛の好意はここまであんまり描写なかったので不確実ですが)。

 あと気になったのは、プロローグで風華から土麗美に渡された仮面ケンドーカードですかね。これまでのルートで出てきたのも同じカードだったと仮定すると、これは火凛→風華→土麗美→水無と持ち主を変えてきたことになります。見えてる範囲だと「好き」の矢印に一致するので、受け取った方からすれば嫌いな人から渡されたものになり、別の人に押し付けてるという流れになるんでしょうか。このあと水無から火凛に手渡されるエピソードもありそうな気がしますね。それが話にどう効いてくるのかは不明ですが……。

『レベル16』

 女性の美徳は清潔と従順、悪徳は好奇心と唱えながら毎日あやしいビタミン剤を飲まされ続ける激ヤバ管理空間で生活する少女どうしの友情もの、基本的には耽美で陰惨な少女地獄だけど終盤でなんか文脈が変わってフィジカルになります。なんで? 私このところ終盤でいきなりパワープレイに切り替わる映画に連続で当たりすぎじゃありませんか?*1 パワープレイは好きですが……。

 露骨にディストピア的な管理社会、SFオチかな? と最初は思ったんですが、よくよく見ていくとその管理っぷりがえらくしょっぱくて、よくある「商品価値のある美しく従順な少女」の最悪養成機関だとしてもやり方がチープ。映画が低予算とかそれ以前にこの管理環境自体の経営が露骨に苦しそうで、あれ? これそういう話? と訝しんでたら実際そういうお話でした。「冷厳で残酷な法則に支配される薄幸の少女たち」という悲劇的で耽美な風に見えていた光景が実はもっと安っぽくてしょうもないハリボテだったと明かされる幻滅感と、そんな空想を環境ごとぶち壊すカタルシスで出来た映画でしたね……。

 あと終盤に差し掛かるくらいのところで、なんかもう話が終わっちゃいそうなポイントありましたよね? あそこでそのまま逃げて終わってた方が幻想性と想像の余地を残す綺麗な結末になってたはずなんですけど、あえて引き返してまで裏の裏まで暴いて別種の結末に至る感じ、「この扉を開けたらグッドエンドだけど、まだ時間残ってますね。戻ってもう少し探索しますか?」ってGMから確認されるやつみたいでした。蛇足なんですが、この映画の場合は蛇足あってこそなので、よかったと思います。

*1:直近でヴァイオレット・エヴァーガーデンを見ていたのでこんなことを言っています。

『幻想牢獄のカレイドスコープ』第2ゲーム 死刑囚:土麗美/ピエロ:風華

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: Video Game

第2ゲーム

  • 死刑囚:土麗美
  • ピエロ:風華
  • 断罪者:火凛、水無

 1周目と逆のチョイスにしてみました。断罪者の水無が土麗美に死刑宣告するも、もう一人の断罪者である火凛が拷問を執行せず、水無を道連れにした全滅を選択。やっぱり全滅エンドもあるんですね……。ピエロの風華が大人しかったのは、自分が死ぬ可能性がある時にリスクを取るような人ではなかったということでしょうか。

 死刑囚になった土麗美は最初からハイスピードでキレてたけど、特定の誰かに対する根深い恨みみたいなのは出てきませんでしたね。本当にただキレてただけでピエロの風華を陥れようとするムーブもしなかったし、あれだけ率先して罵詈雑言吐いたにも関わらず「仲良しだったはずの4人組があっという間に……」とかエモーショナルな独白で締めようするし、味わい深い感じはありました。

 水無のことはなかば犬扱いしつつも、本当に可愛がる気持ちもあったような描写ですね。でもエピローグを見てると虚言の気がありそうだったし、ラストの態度も含めてだいぶ食わせ者の感。牛丼への歪んだ愛情がどうこう抜きに異常者では……。

 前回風華からの情報で触れられた通り、火凛→水無へのネガティブな感情は一貫しているようですね。誰もが誰もに火種を抱えているというよりは、特定の組み合わせに地雷が埋まってる感じなんでしょうか。まあ売り言葉に買い言葉で罵り合うくらいはどの組み合わせでもやりそうだし、ある程度のネガティブ感情は全員がほぼ全員に対して持ってそうですけど。

 今回は前回の風華・火凛と違って、日常パートも水無→土麗美への不信感を裏付けるエピソードだったので、回想部分でも安心は出来なさそうです。悲しい物語でしたね……(かなり土麗美の自業自得では?)。

『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章』

https://pripri-anime.jp

 19世紀末の架空のロンドンを舞台にしたスチームパンク・スパイアクション。2017年に放送されたTVアニメの新作劇場版で、6部作予定の第1弾です。

 TVシリーズ黒星紅白さんの可愛らしいキャラクーを中心に据えつつも、国家権力の権謀術数とそれに踊らされた人間の非業の末路を描いていく直球のスパイものでした。人が容赦なく死んでいくシビアな話ではあるんですが、無闇な残酷趣味に走ることはなく、ハードボイルドな暗闘の中で少女たちの繊細な叙情性を強調していく好シリーズだったので、劇場版も楽しみにしていました。

 TV版のクライマックスで状況が大きく動いていたのでどうなるものかと思っていましたが、とりあえずは元の鞘に収まることができたようで、主人公チームによる一話完結のスパイミッションといういつもの形式が展開されました。劇場シリーズのための仕切り直しという感じのスタンダードな回でしたが、映画クオリティの上に1話あたりのボリュームも増していて、流石に見応えがあります。

 話の要点は完全にチェスで、「内心を隠した者同士がチェスの対局を通した心理戦で相手の手の内を探り合うやつがやりたい!」というスタッフの気持ちがよく伝わってきました。物語の転機となる対局シーンを格好良く見せるために構成されたシナリオという感じで、上手く決まっていたと思います。こういうのは指し手の 2人の心理戦となるのが定番ですが、観戦に来たノルマンディー公がめちゃくちゃ圧をかけてきて三つ巴みたいな構図になるのが面白かったですね(結局公の一人勝ちみたいになっててひどかった)。

 6部作としてはいくつかの伏線が撒かれるにとどまったので、話が大きく動くのは次回の第2章になりそうです。共和国のコントロール、王国のノルマンディー公に次ぐ第三勢力を絡めつつプリンセスの王位継承を巡ってあれこれやっていく話になりそうで楽しみなんですけど、心配なのはこれ本当に完結できるのかな……というところ。2019年の公開予定が伸び伸びになり、ようやく封切りとなったもののこの時節では人の入りは心許なさそう。良いアニメなので、どうにか最後まで見届けたいのですが……。

メギド72「恋は拷問、愛は処刑」

 タイトル公開時は「また混ぜたらいけないものを混ぜて!」と思いましたが……ものすごく綺麗にまとまっててびっくりしました。拷問要素も無理矢理ねじ込んだ感がなく、「恋」と「拷問」で二題囃をやるなら確かにこうなる、という絡ませ方でしたね。今後アジトではキューティーヴァイオレンスナンバー5の恋バナが花開くんでしょうか……(怖い)。

 フルカスの比重が大きめではありましたが、アラストールも対の存在としてすごく噛み合ってたと思います。アラストールのナブールに対する感情はもう少しオブラートに包んでぼかすものかと思ってましたが、直球で恋と明言しててきて迫力がありました。結果的に「つまらない男に恋をしてしまった二人のメギド」といういい感じの構図に落とし込まれて、しかもその男を二人で埋める話までやっちゃったりして、なんか凄いところまで連れてこられちゃった感じですね……。

 デカラビア後編以来、良いイベントシナリオが立て続けに出てきていて嬉しいんですが、たまたまなのか、それとも何かしら理由があるのかは気になるところです。新プロデューサーへの移行が一通り済んで、新しい体制がぼちぼち回り始めた結果なんだとすれば、先の見通しは結構明るく感じるのですが……。

そのほか

  • 抵抗感があったはずなのに異常な説明を聞いてるうちに「拷問も奥が深いんだな……」ってなるソロモン、素直すぎて心配になる
  • 今回の一件で「恋とは苦いものなのだな、勉強になった」って納得してるウァレフォルも大丈夫?
  • ゼパルは初期リジェネでシナリオもらった関係でその後は出番が少ない印象でしたけど、今回は恋バナ回ということで脇役として良い動きをしてましたね。ゼパルはあの通り面食いなわけですが、ムース化したナブールになお執着するフルカスのことを「こんなべちょべちょな奴にあんなこと言えるなんて情熱的」と好意的に評したあたり、他人の恋バナをちゃんと大事にする性格が出てて良いキャラ解釈だったと思います。

『幻想牢獄のカレイドスコープ』第1ゲーム 死刑囚:水無/ピエロ:火凛

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: Video Game
第1ゲーム

  • 死刑囚:水無
  • ピエロ:火凛
  • 断罪者:風華、土麗美

 デフォルトでこの並びだったので、導入シナリオとして推奨されてるルートなのかなと思いそのままプレイ。最初は「皆で助かる方法があるはず!」と一応お決まりの姿勢を見せつつも、早々から雲行きが怪しくなり、やがて感情が崩壊してムチャクチャになる……という、このゲームのおそらく定番であろうパターン進行が見られました。

 具体的には、自分が身代わりになる選択肢を見て見ぬ振りしながら水無の自己犠牲を讃える火凛の白々しさに風華がプッツン、死刑囚を水無から火凛に変更し、土麗美を言いくるめて拷問刑を執行させてエンド。今回は断罪者の風華とピエロの火凛がまず馬脚を現した感じで、あとの二人は比較的おとなしかったですね。

 構成としては、デスゲームの合間合間に挿話のような形で過去の日常パートが挟まってくるようです。日常のすました会話と極限状態での醜い争いを対比させる見せ方なわけですが、上っ面の日常は空虚な偽りで、腹のそこから出た醜い罵り合いだけが真実……という単純な話にはなっていなくて安心しました。悪趣味方向に振り切ってはいるものの、私の好きな竜騎士さんが読めそうです。

 それにしても、火凛と風華が互いに周りから求められた役割に合わせて生きる似たもの同士で……のくだり、完全に竜騎士さんのいつもの人物描写でしたね。今日び「女の子らしさ」云々に焦点を当ててくるのは相変わらずの手癖、趣味という感じですが、そういうネタでも竜騎士さんなりのいい感じに仕上げてくれるという信頼はあるので、期待しながら読ませてもらいます。