『ひぐらしのなく頃に 暇潰し編』まとめ(再プレイ8)

ひぐらし外伝にして、出題編の最終章である暇潰し編。他の編に負けず劣らず重要なシナリオであるだけに、開発段階での仮題をそのまま通してしまったこのタイトルはどうにかならないかなあとは思います。勘違いしてこの編を飛ばし、すぐに解決編を読み始めてしまうせっかちさんがいる可能性もなきにしもあらず。まあ作品としては、お話が短い分だけ全編で良い緊張感を保つことができていたと思います。
外伝ということで本編の数年前を舞台としたこのお話は、その時代設定のせいもあってヒロインが一名を除きまったくと言っていいほど登場しません。主人公のパートナーも女の子ではなく、六十過ぎの大石というおじさんです。この大石さんの立ち絵は序盤からラストまで出ずっぱりで、まあつまり多少暑苦しいお話ではあるんですけれど、ここまで来てそのことを不満に思うプレイヤーもあまりいないでしょう。この大石さんの造型がまた秀逸で、年頃の女の子ならばともかく、こんな中年のおじさんをここまで身体性溢れる形で描写できる作家はこの業界ではそうそういないと思います。全登場人物の中で、いちばんリアリティのあるキャラクターだと言っても過言ではないくらい。下品で狡猾で誉められた性格でもないけれど、悪人でもなく大人としての気の利いた心遣いも心得たキャラクター、というのは若い書き手にはなかなか描き難いものでしょう。
雛見沢の過去に焦点を当てた本作では、国のダム建設計画とそれに対する現地民の住民運動の様子が具体的に描かれます。世界をごく限られた人間関係に閉じ込めがちなこのジャンルにあって、ダム闘争という題材ひとつを取ってみても竜騎士07さんの視点がもっと外に向いていることがよく分かります。ひぐらしがこの界隈の他の作品と圧倒的に異なるのは、実はそういった社会性なんじゃないかなーと思いました。