『昴(6)』

昴 (6) (ビッグコミックス)

 開始早々、ニューヨークでひったくられていきなり無一文! 栄光の内に終わった第一部の「高みにいる」感をリセットし、もう一度最底辺からスタートするんだということを印象付けるいい演出だったと思います。

 そういうわけで雰囲気はがらりと変わり、ストリートやら刑務所公演やらを舞台としたヤクザな感じの第二部突入。超一流のコンクールに勝利し、このままノーブルな道を駆け上がっていくのかと思っていたところへの意外すぎる展開に、そう来たかという驚きがあります。

 必然的に、大舞台にバンバン出てバレエ界の頂点に上り詰めるような展開からは外れてしまったことにもなります。それは少し残念でもありますけれど、まあ分岐のない一本道のストーリーですし、我儘は言えませんね。

 次巻で本格的に描かれるであろう、刑務所での公演風景が興味深いです。主人公は「バレエ」を踊っているつもりなのに、囚人たちは「若い子が出てきた」とか「足が開いた」とかそういうところしか見てくれません。ここからは当然、興味を持たない人に対しいかにして「バレエ」の魅力を伝えるか、という展開になるのでしょう。
 
 これはある意味「表現者には伝えたいことがある」「鑑賞者には好きに解釈する自由がある」という批評的な対立の構図でもあります。いつもなら後者のような遊びの方が好きだったりするんですけれど、たまには「鑑賞者の解釈の自由を表現者の圧倒的パワーで捻じ伏せる」ような表現を見てみるのも面白いかもしれません。