『犬はどこだ』

　かつていつぞや、行く先々たくさんのサイトでこの作品の話題が挙がっていた頃がありました。話題に乗り遅れること三年、今回の文庫化でようやく読めましたよ！

　米澤さんにとって初めての「少年少女が主人公でない作品」だからでしょうか、それとも主人公が物語開始時点で既に一度「人生の挫折」を味わっているからでしょうか。これまでの彼の作品に特有だった、「賢しげな主人公の鼻持ちならなさ」が本作にはありませんでした。

　雰囲気としては、主人公がちょっと弱気なハードボイルド。探偵がちゃんと「地道な検証」で事件を捜査してくれるので、真相が天下り的に探偵の頭に降ってくる解に一意性のない推理より好感が持てました。米澤さんの描く探偵が思考のみで推理するとエスパーみたいになっちゃうことが多いので、こういう実証タイプの捜査がメインの本作は嬉しかったです。

　「構造」を描くミステリーとして、非常に良質な作品だと思います。「少しずつ現れてくる全体像」から「最後に完成する構造」への転換の飛躍が、鮮やかにびしりと決まっていたと思います。さほどの複雑さがない分、読者も一瞬で自体が呑み込めるためキレがいいです。

　嫌味がないし、作品としても安定していて難なく読める作品です。でも最後まで読んでみるとやっぱり米澤さんは米澤さんで、この人はどうあってもこういう作品を書き続けるんでしょう。サガですね。ぐぇー。