『うみねこのなく頃に』の第1話がつまらない理由

 id:trivialは安眠練炭さんがうみねこ第1話をクリアされた様子。この段階までプレイしての感想はなかば予想通りなのですが、プレイを継続するだけの興味が1話で喚起できなかったのはやはり残念です。まあこれも仕方ない話で、だって第1話って、後から見返すと本当に何も起こらない話*1ですもんね。

 第1話は、ミステリー的標準・王道のフォーマットで作品構造を隠蔽し、ハッタリかますことを意図して作られています*2ひぐらしファンかつミステリーにも造詣があるという人なら「"あの"竜騎士07がオーソドックスなミステリを書いている! 何を企んでやがる……」って第1話でけっこう驚くと思うんですが*3、そうでない人には取り立てて特徴もないごく普通のミステリーにしか見えないだろうと。実際、うみねこ第1話単体のインパクトは『ひぐらしのなく頃に』第1話のそれにも劣ると思います。

うみねこのなく頃に』が「これ一作品で一ジャンル」とも言える特殊性を噴出させるのはおおむね第2話以降で、1話の時点ではブラフ的なオーソドックスが貫かれています。最初から特殊性を存分に見せつける構成にしなかったのも、演出の内ではあるでしょう。一話まるまる使って「これはこういう作品だ」と安心できる下地を築いてからの方が、何やるにしてもまあ色々ごにょごにょと都合がよい*4からです。

 ただ、この試みが「本来この作品を楽しめるはずのプレイヤー」を遠ざけてしまったことも否めないでしょう。同人作品だから読者を絞るのは悪くないことだと思うのですが、本来届くべき読者をも遮断しまう構成になっているのは、ちょっと勿体ないとも思います。第1話を無料体験版として遊べる本作ですが、少なくとも2話の途中までやらないと、本作の特殊な方向性は見えてこないだろうな−、というのが、この作品が初読者に対して持つ最大の弱点なのだと思います。

 正直ここで止めるのは凄く勿体ない! 『Girl's Guard』とまでは言わなくとも*5、『GOSICK』だけ読んで桜庭一樹の評価を決めるようなものだ! などと私などは思うのですが、とは言えネタばれ抜きにその辺を表現する言葉はすぐには出てきません。これは長期戦になるで……と拳を握りしめ、id:FTTHさんあたりが援護射撃してくれたらいいなーとか思いつつ竜騎士さんのインタビュー動画を眺めてぐへへと涎をたらすのでした。

*1:当作比。あくまでこのシリーズ内で比較してーですよ!

*2:ゲームスタート時の話数選択メッセージでも、その意図は明言されています。

*3:第1話のオーソドックスな展開が、後々どう覆されていくのかに興味の焦点が当たる。

*4:ひぐらしは「読者にミステリーと思われてしまった」ことで失敗したのに対し、うみねこは「読者にミステリーだと思わせる」ことで成功させようとしていて、同じように見えても自覚性の変化を見て取ることができるでしょう。

*5:ひぐらしだけ読んでうみねこを断じたのなら、こっちのたとえが適切。『アガペ』だけ読んで石黒正数を断じるようなもの、でも可。