未知なる倫理への問いかけ - 『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード

エンダーのゲーム (ハヤカワ文庫 SF (746))

 基本的には"恐るべき子供たち"的な話。異星からの侵略生物「バガー」に抵抗する人類の最後の希望として、わずか6歳で過酷な軍人育成学校「バトルスクール」に放り込まれた主人公エンダー。特別待遇の自分に対するチームメイトたちの嫌がらせ、学校が自分にだけ要求する常軌を逸した訓練メニュー等、彼には"彼一個人を対象として特別に組まれた"養成プログラムが次々と課せられていきます。

"冷徹な戦闘機関"となることを期待されるエンダーは、家族や友人たちとの繋がりを根こそぎに断たれていきます。常に限界状況に置かれてもがき苦しみつつ、それでも決して挫折することのないエンダー。「人類を救う」という目的は、彼にとって決して現実感の伴うものではありません。けれど有能すぎるがゆえに、結局彼は全ての試練をクリアできてしまうのです。そのことが、彼をさらなる苦悩に陥れていきます。

 凄絶な苦難を片っ端から乗り越えていくエンダーの、苦悩に満ちた天才性。それが本作を牽引する最大の魅力でしょう。ただし、ラストのほんの10ページほどで、それまで本作で隠蔽されていた影のテーマが突然姿を現します。それは人類と異なる倫理・認識を持った生命体「バガー」といかに向き合うかという問題で、人類がまだ経験していない「未知なる倫理」への問いかけです。

 このラストシーンの情景は本当に美しくて、生命存在そのものに向けられた優しい眼差しに満ちています。それまでの500ページで積み重ねてきた「素朴で繊細なミリタリーSF」の印象を、一気に覆してしまうほどの感慨がありました。この点にこそ、本作最大のセンスオブワンダーがあったのだと思います。