『柳生薔薇剣』
いささかユーモア成分多めの荒山柳生。柳生十兵衛の姉が出てきて、完全に十兵衛のキャラを食います。ていうか今回の十兵衛はただのヘタレで、実戦の描写すらまともにありません。こ、こんな十兵衛見たことない! あねうえー。
というわけで、「女の強さ」に焦点が当てられてるっぽい作品。主役は当然、十兵衛の姉である柳生矩香ですが、朝鮮政府に身柄を狙われるヒロイン的な役どころである帰化人・高月うねもまた、「強い女性」として主役格の存在感を持って描かれています。朝鮮をコケにすることに作家生命を賭けているような荒山さん(語弊)ですが、本作の高月うねについては、凛々しく苛烈な意志を持った女性として、一貫して肯定的に描いています。それも、朝鮮を捨てて日本に帰化したから善人扱いされているわけでもなく、彼女の苛烈さを朝鮮人の国民性ゆえのものとし、それをそのまま肯定している風に読めます。
このあたりの描写の仕方を見ていると、荒山さんが徹底的な侮蔑の眼差しを向けているのは常に権力者や政体に対してであって、無辜な民衆を不当に悪し様に書くつもりは決してないのだなということが改めてよく分かります。過去に読んだ作品では荒山さんの態度がよく分からなかったので「面白いんだけど、面白がっていいのかしらこれ」って煮え切らない感があったのですが、本作は荒山さんの一貫した態度がどこにあるのか納得できてよかったです。