『BASTARD!!(26)』

BASTARD!! 26 (ジャンプコミックス)

 「ゴールデンドロップ」という紅茶用語があります。人間を万力で締め上げて血を採取する時、限界まで搾りきった最後の最後でしたたる一滴のことをこう呼ぶそうですが(えー)、どうも萩原さんのこの作品もそういう境地を目指しているような気がします。

 萩原さんに対する「怠けている」という風評がどれほど妥当なものなのか、私には分かりません。ほんとに一日中ゲームとかしてるのかもしれないです。でも、この漫画の「画」に並々ならぬ労力が注ぎ込まれていて、その密度が並大抵のそれを遥かに凌駕しているのは、素人目にだって明らかです。ほとんど執念のような、作家の怨念を凝縮させたような「画」が、この作品の上に描き出されています。

 でも、そこまで「画」に力を入れても、喜ぶ人はぶっちゃけ少数なんですよね。多くの読者は、だいたいストーリーの続きを気にしています。「方舟の続きどうなったの?」とか、そういうのが興味の主眼。「奴は我々四天王の中でも最弱……」みたいな手合いとの局所的なバトルを描くのにまるまる5冊を費やすなんて、誰得な仕事だとは思います。

 だけど、やる。あえてそういう、誰も幸せにならない道に突き進んでしまう。そうまでして、限界まで身を削って手に入れようとしてるものって何なんだろうと考えると、それはもう萩原さん個人の作家としての矜持、執着くらいしかない気がします。そうやってやっと辿り着いた境地はおそらくこの世に無二のものだろうと思うのですが、それにしたって賭けるもの、犠牲になるものがあまりにも多すぎます。

 もしもこんな作家ばかりだったら日本の漫画業界はあっという間にお陀仏だったでしょう。商売どころか、娯楽としてすら成り立たちそうにありません。でも、一人くらい、萩原さん一人くらいは、そういう境地を目指す人がいてもいいんじゃないかな、とも思うのです。最後の一滴、ただ一滴のとるに足りないゴールデンドロップを搾り取るために、持てる全てを賭ける作家。もう片方の手がゲームのコントローラに伸びてるような気がしないでもないですが、まあ一読者としてはあと数十年くらい気長に付き合ってもいいのかなという気はしています。