『ロブスター』

 独身者が「社会的義務を果たさぬ人間未満の存在」として迫害されるディストピア社会を舞台にした風刺映画、という理解でいいんでしょうか。脱走した独身者で結成されるゲリラ組織も逆方向に極端な恋愛禁止サークルだし、作中で描かれる恋愛様式自体も「自分と相手の共通点を探す」以外の発想が一切存在せずどこか妙ちきりん。ビジュアル上はなんの変哲もない現代社会なので、なおさら歯車の噛み合わせが狂った並行世界のような味わいがあります。

 独身者を集めてパートナー探しをさせる強制収容制度、カップルにあれこれ吹き込んで恋仲に亀裂を入れる嫌がらせを大真面目な「襲撃作戦」として決行する独身者ゲリラなど、「そうはならんやろ」という間の抜けた要素が意図的に散りばめられていて、設定だけ読むと完全にバカ映画です。にも関わらず、演出上は終始上品で緊張した雰囲気が貫かれているので、ツッコミ不在の何とも言えない気持ちのままラストまで運ばれるのが絶妙でした。独身者収容所への登録時、ホモセクシャルヘテロセクシャルは一応選べるけどバイセクシャルの選択肢は管理の都合で廃止になりました、と言われる冒頭のシーン、一応多様性に配慮してますよの姿勢だけは見せるけど実態に対してはとことん無頓着という運用がアホくささの極まるいい風刺になってて好きです。