『うみねこのなく頃に episode1 Legend of the golden witch』

 「ひぐらしのなく頃に」で素人の分際でろくに知りもしないミステリーの世界に殴り込み、案の定返り討ちでコテンパンに叩きのめされてどうせもう駄目なのですよあうあうあうあうwwwwwwwの竜騎士07さん、新作を引っさげてのリベンジです。

 ああ、竜騎士さんは今回も本気なんだなあと痛感しました。『ひぐらしのなく頃に』の第一話「鬼隠し編」と比べると、「推理」というテーマに対するケタ違いに入念な下準備と慎重さが感じられます。これはヒット作の余力で生まれた作品なんかではありません。崖っぷちだった「ひぐらし」の頃の意気込みに決して劣らない、竜騎士07さんの「今の本気」をありたけ注ぎ込んだ作品なのだと思います。

 何かにつけて「ひぐらし」と比較されることは避けられないでしょうし、そうすることで見えてくる問題もあると思うので、「ひぐらし」との差異についての言及が多くなるのはご勘弁ください。「ひぐらし」からの変化については、後々まとめ記事でも書こうかなとも思っています。(よそに先を越されなければ)

 プレイ前から心配だった点は幾つかありました。「推理は可能か、不可能か」なんて大見得を切ってしまった収拾はつくのかという点と、登場人物たちの名前やタイトルについてのあんまりなネーミングセンス。そして「ひぐらし」並みの高いレベルの面白さをまったく新しい土俵で維持できるのかという、期待の反動からくる単純な不安。

 第一話をクリアした今は、別に心配する必要もなかったなあと感じています。「ひぐらし」で散々叩かれたので流石に懲りたようで、「推理」云々については竜騎士さんも入念に対策を練っていた様子が見られます。少なくとも「ひぐらし」ほど大きな失敗をやらかすことはないでしょうし、「ひぐらし」よりも自覚的に実験的な試みに挑もうとしているのも分かります。今回の竜騎士さんは「自分が何をしようとしているか理解している」感じなのです。

 タイトルについては、最初「仮タイトル」として聞いたときからなんとお間抜けな名前だろうと思っていましたし、タイトル変更なしでこのまま行くという発表があったときは正気かとすら思いましたけど、結局慣れてしまったのでまあいいのかなあと。音の響きはともかく、流線的になったタイトルロゴは案外かっこいいですし。

 日本人のくせに楼座をローザと読ませたり戦人をバトラと読ませたりする絶望的な人物名についても、作中で「名付け親は酷いネーミングセンスだ」と繰り返し言及があります。「そういうもの」として描かれている以上、もう何も言うことはありません。こういうのはどうせそのうち慣れますし、プレイの前段階でのとっつきやすさだけの問題なのだと思います。

 ついでに慣れると言えば、あの立ち絵だって「ひぐらし」にずっと付き合ってきた猛者なら本編始まって五分で慣れるでしょうし、女性キャラの外見が幼女も熟女も区別付かなかったりするのもそのうち慣れます。全キャラクターに豊富な表情と立ち絵が用意されている分、表現の幅は「ひぐらし」よりも広がっています。システム画面から戻るときにいちいち「パリーン!」とか派手な効果音が鳴るのもそのうち慣れます。慣れます慣れます。

 今回は、「ひぐらし」第一話ようなキャッチーな衝撃はありません。作品単体としての作劇は「導入」に徹した大人しめのものになっています。でもその分、シリーズ全体の方向性を感覚的に分かりやすく明示できていると思いますし、だからこそ考えれば考えるほどシリーズに対する期待度は増していきます。「ひぐらし」は背後から突然首を絞められたようなショック効果でのめり込んでいきましたけど、「うみねこ」にはもっと落ち着いた心からの確かな期待を感じています。

 「本格推理小説」のガジェットでガチガチに固めた雰囲気には危なげがなく、付け焼刃で表面をなぞった程度のものには思えません。そしてそういった雰囲気から始まりつつも、「ファンタジー抜きに真相の看破は不可能だ」という挑戦状をプレイヤーに叩きつけ、話が進むにつれ「人間犯人説が真相のはずだ」という望みをじわじわと断っていくストーリーテリングの手際はさすが。心理操作*1にどっぷり嵌められた気持ちです。


 ところで本作には、二次創作やメディア展開に繋がるキャッチーさが意図的に避けられているような節があります。まず、登場人物。全18人中女性キャラは8人、そのうち5人が中年以上の年齢です。若者は使用人を入れても6人しかいませんし、半分は男性です。

 そして驚くべきことには、主人公の恋愛対象として適当な立場にある若い女性キャラクターが一人もいません。主人公の周りの女性は幼女とか先約済みとか熟女とか老女とかばっかりで、ギャルゲーの体裁を借りつつこの配置は結構稀有なことだと思います。また、「ひぐらし」で頻発されていたネコミミやら体操服やらの萌えネタも今作ではほぼ皆無で、主人公一人が年相応よりちょっと過激に助平な程度。そんなのですから、アレな同人本を作る余地も非常に狭いのです。

 音楽は背景に徹したメロディアスでないものが多く、「ひぐらし」の頃の曲目と比べるとアレンジなどで大騒ぎをする余地があまりありません。志方あき子さんのOP曲も単体としての完成度が高すぎて、BGMとして動画に合わせるとかならともかく直接手を加えるのには向きません。"MADability"が低いとでも言いましょうか。ニコニコ受けがさほどよくないとも言います。

 以上諸々の要素を見ても、「うみねこ」がセールス的に「ひぐらし」を越えることはない*2と思います。少なくとも、二次創作などの副次効果でガンガン流行らせていこうという意図があるのなら、全体的にもう少し扱いやすく作られていたはずなのです。更には表現規制で弾かれかねない「多指症」なんてネタも登場して、本作はまるでメディア展開を嫌っているようにすら見えました。

 「ひぐらし」のメディア展開はちょっと過剰すぎるように思えましたし、今回はもっと落ち着いた環境を形成して行きたいということなのかもしれません。これも竜騎士さんの「本気」のひとつの現れであるように思えます。

 続編が公開される冬コミは十二月ですけれど、それまでの四ヶ月があまりにも長く感じられます。たしかに、ある程度考える期間を経てから挑んだ方が続編をより深く楽しむことができるんでしょうけれど、それにしても生殺しです。そんなアレでしばらくはまたうみねこ関連の更新が増えると思いますけど、生暖かくお付き合いいただけたらと思います。

*1:ひぐらし皆殺し編」ラストの「信じてた……?」で発揮されたアレな感じ。

*2:無名時代は除くとして。