『幻想牢獄のカレイドスコープ』第1ゲーム 死刑囚:水無/ピエロ:火凛

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: Video Game
第1ゲーム

  • 死刑囚:水無
  • ピエロ:火凛
  • 断罪者:風華、土麗美

 デフォルトでこの並びだったので、導入シナリオとして推奨されてるルートなのかなと思いそのままプレイ。最初は「皆で助かる方法があるはず!」と一応お決まりの姿勢を見せつつも、早々から雲行きが怪しくなり、やがて感情が崩壊してムチャクチャになる……という、このゲームのおそらく定番であろうパターン進行が見られました。

 具体的には、自分が身代わりになる選択肢を見て見ぬ振りしながら水無の自己犠牲を讃える火凛の白々しさに風華がプッツン、死刑囚を水無から火凛に変更し、土麗美を言いくるめて拷問刑を執行させてエンド。今回は断罪者の風華とピエロの火凛がまず馬脚を現した感じで、あとの二人は比較的おとなしかったですね。

 構成としては、デスゲームの合間合間に挿話のような形で過去の日常パートが挟まってくるようです。日常のすました会話と極限状態での醜い争いを対比させる見せ方なわけですが、上っ面の日常は空虚な偽りで、腹のそこから出た醜い罵り合いだけが真実……という単純な話にはなっていなくて安心しました。悪趣味方向に振り切ってはいるものの、私の好きな竜騎士さんが読めそうです。

 それにしても、火凛と風華が互いに周りから求められた役割に合わせて生きる似たもの同士で……のくだり、完全に竜騎士さんのいつもの人物描写でしたね。今日び「女の子らしさ」云々に焦点を当ててくるのは相変わらずの手癖、趣味という感じですが、そういうネタでも竜騎士さんなりのいい感じに仕上げてくれるという信頼はあるので、期待しながら読ませてもらいます。

『幻想牢獄のカレイドスコープ』やります

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

幻想牢獄のカレイドスコープ 通常版 - PS4

  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: Video Game

 フルボイスのサウンドノベルなんて長いことやってませんでしたが、なんかピンと来たのでトライしてみることにしました。竜騎士07さんの、もう露骨に悪趣味な美少女デスゲームです。公式略称として「ゲロカス」を推してたりとか、樋上いたるさんに古戸ヱリカみたいなゲス顔描かせたりとか、前情報を見る限り何もかもが酷い。デスゲーム自体もあんまり好きなジャンルでもないんですが、何にせよ私は竜騎士さんに弱いので……。

 コンセプトは非常に面白くて、ゲーム開始時に4人の女の子に「死刑囚」「断罪者」とかの役割カードを配ることで、それぞれの役に応じて分岐したシナリオが進行するという仕組み。同じメンバーでも少し立ち位置が変わるだけで関係性や振る舞いががらりと変わるという趣向で、こういうちょっとシステマティックな遊びを竜騎士さんがやると抜群に面白いシナリオを書いてきてくれそうなんですよね……。

 1ルートあたり30分かそこらで終えられるようなので、区切りもよくて遊びやすそうです。冒頭遊んでみたところ感触もよかったので、珍しく短いプレイ記録でもつけてみようかなという気持ちになりました。単純計算の組み合わせは12通り、実際はトゥルールートやら何やらでもう少しありそうですが、筆不精にはちょうどいい量かなと思います。

OP〜導入部

 
 とりあえずカード配布までの導入部分を。OPムービーはやたらポップで、2000年代美少女ゲームの香りがします。まずは穏やかな日常パートでギャルゲーノリをやりつつキャラクターを紹介していく定番スタイルかと思っていたんですが、いきなり全員地下室に監禁されてるところから始まったのはスピーディで良かったです。もっと腰を据えた話ならゆっくり日常パートを描いてから叩き落とすひぐらし形式もいいのですが、スリムにまとまってそうな本作はスタートダッシュの方が適してそうです。

 演出まわりもテンポが良くて快適ですね。このゲームの特徴というより最近のトレンドなのかも知れませんが、フルボイスによるプレイ時間の長大化を回避するため、音声周りの調整に結構気を遣われてるよう感じました。自分がテキストを読み終わってもキャラはまだ喋ってる、という「待ち時間」を感じることが比較的少ない。気持ち早めに喋るよう指定されてたりするんですかね? 私は「どんどん読み進めたいけど声優さんの演技を飛ばすのは申し訳ない……」みたいなところで余計なストレスを感じてしまうタイプなので、かなり有難いです。

 一通り導入が終わったら、おどろおどろしい真OPムービーが始まりました。わざわざ2パターンも用意して……趣味が悪い! 説明されたルールの要約は以下の通り。言葉遊び的な抜け道とかあるかもしれないので、言い回しが不正確かもしれませんが……。

  • 工場のような閉鎖空間に幼馴染の4人の少女が監禁されている
  • さらに、天井から吊るされた檻の中に見知らぬ少年(意思疎通不可)が監禁されている
  • 5分以内に1人を処刑すれば残りの3人が助かり、さもなくば全員死ぬ
  • 最初に1人1枚ずつ4枚のカードが配られ、その役割が与えられる
    • [死刑囚]「断罪者」により刑が執行されることで残りの3人が解放される。「断罪者」から無罪を宣告されると、直ちに「ピエロ」と役割が入れ替わる。
    • [ピエロ]「断罪者」が「死刑囚」に無罪を宣告すると、直ちに「死刑囚」と役割が入れ替わる
    • [断罪者]2枚。1人が「死刑囚」に有罪を宣告すると拷問椅子の準備が整い、もう1人が拷問レバーを引くことで刑が遂行される。有罪/無罪の宣告者と刑の執行者は変更できず、どちらかが有罪/無罪を宣告した時点で役割が確定する。宣告者は何度でも有罪/無罪を宣言可能。

 それぞれの立場が全く平等ではなく、基本的には死刑囚とピエロの間で処刑を押し付けあうしかない。なおかつ断罪者の2人も役割が異なり駆け引きがある、場合によっては自分もろとももう1人の断罪者を道連れにする選択もあり得るというところがぱっと見の変わったところでしょうか。

 死刑囚候補が4人、残り3人からピエロを選べ断罪者も決まるので、カード配布の組み合わせは意外とシンプルな12パターンということになります。この中に当たり的なルートがあるのか、条件を満たして新ルートを解放するのかは分かりませんが、まずは思いつくままにやっていこうと思います。

『マイ・フェア・レディ』

マイ・フェア・レディ 特別版 [DVD]

マイ・フェア・レディ 特別版 [DVD]

  • 発売日: 1999/10/14
  • メディア: DVD

 下町生まれの粗野な女を半年間の教育で立派なレディに仕立て上げられるかどうか、という最悪な「賭け」の対象にされた主人公が、嫌味な言語学の教授の指導によって立ち居振る舞いを変えられていく……という、まあいわゆるシンデレラストーリー。素直に見れば名作ロマンス映画という枠組みになると思うんですが、時代の移り変わりでかなり受け止め方の変わりそうな作品でしたね……。なんで私は年始の『パラサイト』直後に追い討ちをかけるようにしてこんな階級格差映画を観てるんですか?(犯人:おもち)

 登場人物の言動は基本的に当時の世相を反映したものだと思うんですが、そういうのをさっ引いても教授の言動は明らかにひどくて、学がなく訛りの強い主人公のことをもうずっとコケにしまくります。加えて、ロマンス要素の強くなる後半は限界まで捻くれた異常な男女観も教授の酷さに追い討ちをかけてきます。「どうして女は男のようにできないんだ」「どうしてこちらの気も知らずに」とか歌い出した挙句、主人公に逃げられたら母親に泣きついて「ママーッ!」とか言い出したりして本当に凄かった(本当にママーッて言ってた)。

 ただ、そういうのが「当時の感覚」で無批判に描かれてるわけではなくて、見る人が見れば明らかにろくでもない男だと分かるように描かれてるのが流石でしたね。というかこの男尊女卑モラハラ男の真に迫った描写、今の感覚で見てもぜんぜん色褪せた感じがしません。最後に主人公が教授のところに戻ってくるのは解せないし、手心という感じがしますが……。

 教授にはひたすら「ヒェ〜〜」言うてましたし、皮肉たっぷりの階級描写につらみを感じましたが、話運びは面白いし、ちょっと長めのミュージカルシーンも聴いていて楽しかったです。お父さんの登場シーンがいい意味で話の腰を折ってて好き。時代によって受け止め方の変わる部分があっても、それによってむしろ厚みが増してるのがすごくて、さすが息の長い名作だな〜〜という感想でした。

メギド72「メギドラルの悲劇の騎士」

 デカラビアが終わったばかりなのに矢継ぎ早にこんな高密度の話が来るなんて……。2021年怖ない? 年始から飛ばしすぎでは? とにかくよかったです。

 今回は五幕構成がうまく効いてましたね。まず第一幕で演劇キャラであるマスティマをイロモノ的な第一印象で登場させつつ、ヨニゲマンにまつわるちょっとアホみたいな不運エピソードを「安っぽい悲劇」としてなかば喜劇的な味付けで見せつけてきたのが巧みでした。少なくとも今回のシナリオで「悲劇」といえばこういうノリなんだな、という前提がうまいこと提示されてたと思います。単なる不運や勘違い、間の悪さや道化じみた人の愚かさなどが都合よく組み合わさって起こる、喜劇と隣り合わせの悲劇というか……(たぶん古典演劇とかのイメージだと思いますが、その辺は詳しい人が解説してくれてそう)。

 そうやって安い滑稽な悲劇を見せた上で第四幕に繋がるので、ヴェルドレのあのあまりにあんまりな状況もそういう悲劇の延長なんだということが分かるんですね。ステロタイプで使い古された「女の嫉妬」と大衆の愚かさに端を発する薄っぺらい悲劇、めちゃくちゃ趣味の悪いエピソードだったと思いますが、その悪趣味な悲劇観に苛まれ続けるのがマスティマの「個」だという話でもあるんですよね……。

 第四幕だけだと単なる後味の悪い話ですが、もちろんそこでは終わらず、それを踏まえた上での第五幕です。マスティマ、アマイモン、夢見の者などの演者が明確な意思をもって悲劇に抗い、さらに「観客」の立ち位置である二代目旅団長の思いまでが結実してようやく大団円に手が届いた、という流れがシナリオ全体の構図を綺麗に締めてくれてたと思います。巧いし、こうやって陣営の違う面々がそれぞれに流れを紡ぐことで望ましい結果に結びつけていくシナリオ運び、すごくメギドでしたね……。毎回この域のシナリオが飛んできたらちょっと困るかも、というくらい良いお話でした。

そのほか

  • 追放メギドが仲間になることを当然視するソロモンの態度には引っかかりを覚えましたが、ブネが「おまえの自由になるオモチャじゃねぇ」とかなりストレートに叱ってくれたので安心しました。いつもメギドの意思を第一に考えるソロモンの言動としては意外でしたが、ヴェルドレが祖父を知る相手だったことでちょっと気持ちが浮ついてしまったとかなんでしょうか。
  • 第四幕を古典的な悲劇として描く意義はよく分かるんですが、そこにあんなベッタベタな「女の嫉妬」を持ってきたのについては「またやってる……」とやや引きましたね……。三馬鹿イベントの昔から「愚かなモブ女のステロタイプ描写」を捩じ込んでくる謎の癖がメギドにはあったので、そういう意味では今回も別に意外ではないんですが……。毎回同じ手つきが感じられるのでライター陣の中に異様なこだわりを持つ人がいるのかもしれませんが、メギドという作品の中でこういう描写を頻出させる意味については一度整理してもらった方がいいのでは(特にこだわりとかのない単なる手癖ならやめた方がいいと思います)。
  • あんな目に遭った後でも迷わず自由の旅に飛び出すヴェルドレ、面白いを通り越してむしろ怖かったですね。これがメギドの「個」……。
  • せっかく本編がいい感じに終わったのに、個人シナリオ読んだら全然別件でマスティマがまた酷い心の傷を負っていたので、人の心はないのかと思いました。過去の悲しみを克服して新天地ヴァイガルドでようやく新たな一歩を踏み出したところなのに、ひどい……。マスティマのこれからの人生……。

『逃げるは恥だが役に立つ』

逃げるは恥だが役に立つ Blu-ray BOX

逃げるは恥だが役に立つ Blu-ray BOX

  • 発売日: 2017/03/29
  • メディア: Blu-ray

 見る流れになり、見ました。

 恋愛感情のない2人が経済的合理性のために事実婚契約を結ぶお話……と聞いていたので、ドライでセンセーショナルな内容を想像していたのですが、実際見てみると意外なほど誠実に作られた作品でした。作り手側にかなりしっかり「文脈」(何の?)を押さえてる方がいらっしゃるようで、家族制度や恋愛規範を根本的に相対化しているところが感じられます。ただ作品としてはそういうエッジの部分を生のままぶつけることはせず、平均的な視聴層にしっかり焦点を据え、迂遠なくらい慎重な働きかけに腐心しているように見えました。かなり突っ込んだところまで掘り下げているにも関わらず、一見すると別に説教臭い話には見えないという凄技。

契約結婚」(と作中呼ばれている)を行うことになる主人公の2人にしても、特別な思想の持ち主というわけではありません。勢いでそういうことをやる程度には突拍子もない人たちですが、ベースにある道徳観念は平均的な範疇ですし、お茶の間的にも共感・好感が得やすそうな好人物として描かれています。2人が事実婚契約に至る流れは成り行きと思いつきが不思議な結びつきをした結果で、背景思想として家族制度や恋愛規範に対する強い疑義や反感があったわけではありません(家事労働は年収304万円相当の賃金に値する、という発想がスタート地点にあって、そういうところを2人とも織り込んでたので話が早かったのはありますが)。

 2人が世間体を取り繕いながら"夫婦"生活に取り組んでいく様は、かなりストレートな"ラブコメ"タッチで描かれています。最初は恋愛関係でなかったけれど、一緒にいるうちにやがて……という典型ですね。結局は平均的なヘテロ恋愛の枠組みに収まっていく話と捉えることもできるし、意識的にそう見せてるんだろうなとも思います。ただそこよりも、2人の関係性が完全に解体された状態を最初のスタート地点とし、全ての要素を2人の判断で取捨選択しながら"夫婦"関係を再構築していくことで、社会通念的にワンセットで考えられがちな恋愛・結婚・夫婦・家事役割といった概念をいったん解きほぐしてして見せたことが重要なのでしょう。視聴者に言って聞かせるというより、視聴者も気づかないうちに別の考え方を受け入れる下地が出来上がるよう心を砕いた作品、というふうに見えました。

 たとえば第2話で、主人公がゲイである同僚への先入観を後悔するシーンがあって、趣旨としては「よくある偏見」を批判するエピソードに他ならない思うんですが、表面的にはきつい印象を受けないシーンになっていました。主人公が自発的に過ちに気づき、連鎖的に別件の行動をも顧みるという形でスムーズに本編の話に接続していく流れだったので、仮に視聴者が同じような偏見を持っていたとしても「糾弾された!」と感じにくい話運びになっているんですね*1。こういう手つきは全編通して随所に見られて、とても細やかで技巧的に構成された作品だと思います。

 ただ、単純にマイルドなのかというとそういうことは全然なくて、伝統的な価値観に対するある種意地の悪い描写は随所に散りばめられていたと思います。これも描き方が上手くて、そういう価値観を内面化してる人にとっては当たり前の光景に過ぎないので、それが皮肉と分かる人にだけ皮肉と伝わる絶妙な見せ方。「分かってる人が話を書いてる」という安心感があるので、伝統的には「いい話」扱いされそうな厳しいエピソードをお出しされても「どっち? どっちの意図で書いてるの?」と悩まなくていいのはありがたかったです(どちらにせよ厳しいのは厳しいんですが……)。

 社会的な部分以外も、そもそもドラマとしての出来がめちゃくちゃ良かったので、これが数年前の大ヒット作品というのも納得の出来でした。役者としては平匡さん役の星野源さんがとにかくすごく良くて、ずっと驚嘆してましたね。細かい視線の動きとか、予想外のことが起きた時に一瞬言葉に詰まる間とか……こういうタイプの人間のエミュレート精度がめちゃくちゃ高かった。今まで真田丸徳川秀忠役くらいでしか見かけたことありませんでしたが(あれも凡人ぽく見えてなんか異様なところがあり、印象的ではありました)、このドラマで星野さんのこと一気に好きになってしまいましたね……。

「ガンバレ人類!新春スペシャル!!」

 昨年末に本編を観た時ここまでの感想は書いてたんですが、アップする前に新春スペシャルも放送されてしまったのでこのまま続けます。

 まず冒頭、二人の子供なのに「私も子育てをサポートします」的な物言いをしていきなり地雷を踏み抜く平匡さん。え、今更? と思うような失言ですけど、そこで昔のようにフリーズして1エピソード引っ張るのではなく、「またみくりさんに言わなくていいことを言わせてしまった……」と何段階も前進した後悔が出てくるのがいいし、みくりさんもそのまま立ち去るのを堪えて向き直ってくれる。まだまだ前途多難という見せ方ではあるんですが、2人は今もこういうサイクルを回しながら前に進んでいて、しかも着実に前よりうまく回せるようになってるんだな〜〜と一瞬で分かるとてもいいシーンでした。

 そんなわけで内容としては間違いなく逃げ恥で、それが2021年の時勢に合わせて順当に更新された作品になっていたと思います。ただ、合わせるべき時勢の方が今回あまりに激しく動いてしまったので、そこを誤魔化さずストレートに追いかけた結果、いつにも増して突っ込んだものがお出しされた感がありました。というか感染症にまつわる2020年春頃の記憶って早くも薄れつつあったので、「ああ、あの頃はこうだった」と思い返す形になったところもちらほらありましたね。時事ネタは風化しやすいなんて言われがちですが、それは時勢の文脈を暗黙の背景にした表現が後世に通じないという話であって、ある歴史的期間の様相を切り取って形にした本作のような作品は後々まで残る力を持つように思います。

 その上で、ラストが感染症が収束したと思しきシーンで締められたのも良かったですね。未来の動向なん分からないし、個々人の状況によってすら「収束」と言える時期は異なるわけですが、そこを何時とでも取れるように描いたのがまず巧い。それでいて、収束後の光景自体は必ず訪れる具体的な映像としてしっかり描いてくれたわけで、人に希望を見せるってこういうことなのかなと思いました。あんまり作品の社会的意義とか効能を云々するのは趣味ではないんですが、こういう作品が名実ともに「大人気」という触れ込みで大々的に放送される現実で良かった……と思いました……。良かったですね……。

*1:あと平匡さんが単なる朴念仁ではなく人並み以上に他人を尊重する心根を持ち合わせた人だということも分かるし、短いエピソードに二重三重の意味を持たせていてすごくテクニカルですよね。序盤の好きなシーンです。

『メギド72』8章4節感想

 いくらなんでも面白すぎました。イベントシナリオで今年秋以降最大のヒットはデカラビアイベントだったと思っていますが、メインシナリオはそれを上回るくらいの密度の話が毎回確実に実装されてきました。なので毎度「今回めちゃくちゃ面白くなかった?」って言ってたんですが……いくらなんでも今回面白すぎませんでしたか? ど、どうしよう……(面白すぎるものを読むと自我が不安定になる人)。

 おなじみソロモンの軍団員同士がやり取りしてるシーンも安定感があるんですけど、マモンの勢力やサタン、メギモンが絡んでくると「この面子だとこういう会話になるんだ!」っていう面白さが会話ごとにあって、それだけでもずっと興奮してましたね。サタンの挨拶回りシーンなんか、ただ一言ずつ言葉を交わしてるだけなのに「え??」とか「うっそ???」とか驚き通しで……。なんていうかサタン、すごく顔が利くヤクザの大親分みたいなメギドでしたよね。下っ端の顔までよく覚えていて面倒見もいいけど、殺すときは平気で殺せるみたいな。好感度は高くはあるんですが、これと戦うのめっちゃ怖いですよ……。

 メギドラルのソロモンについではもう、この先が怖すぎて今の段階では何も考えたくないです。初登場のときはチンピラかと思ったけど、そういうことではなくて、本当にものを知らされてないんですね……。どう考えても激しく敵対する相手なのにあえての馴れ合いエピソードを突っ込んでくるのも、逆にえげつなさしか感じません。せめて死なないで欲しいけど、いや、死ぬでしょこれ……。死なないでほしい……。

 タイガンニールもインガセクトも異様な掘り下げ方されてましたけど、特にインガセクトがツボでした。胎界物が胎界主を超えるたましいの煌めきを見せる瞬間ってこういうのでは?(いきなり前提ゼロからの胎界主トークをするな) いえ本当、大河が見えてるイヌーンも含めて、8章4節には胎界主の変奏を幻視してました……。"主流"ではなく"大河"なんですよ……。

 で、マモン様ですね。どうでしたか? 8章3節を終えた時点の私は正直「ここからどうやってマモン様の格上げるの?」って心配だったんですが、そこはどうにかなったように感じました。エクソダス関連で前回あれだけ無様を晒したのにも態度が異様に強硬だったのにも、今回の説明で一定の納得はありましたし、「遠い情景」まわりの描写は格好良かった。いちおう大罪同盟のメンバーとしての面目は保たれたのかな……と思います*1

 その上でなんですけど、マモン様本当に厄介上司ですね! その采配に惹かれて寄ってくる部下がいる、というのも理解できはしたんですけど、それにしても地雷ワンマン経営者過ぎますよ! 絶対あそこで働きたくない。トップとしてはともかく管理職としてならアジトに必要な人材な気もする*2ので、平メギドとして一からやり直せという気はなくなりましたが、うーん……。メギドの塔探索とか毎回大揉めしそう……。

そのほか面白かったところ

  • マモンの城を強襲しろ! 電撃作戦で戦争に勝てば……次回メギド72 82-2「敗北を悟る」出オチにも程がありません?
  • マモン様の城がマモン城って呼ばれてる時点でもう面白い(アーサー城とか信長城とか言わんでしょ。魔王城ですか?)
  • 「爆発しそうなマモン城に仲間を召喚しても無駄な犠牲が増えるだけだ、安易にフォラスを呼ぶんじゃない!」「そうだな……」って話の流れで代わりにアスタロトが召喚されてくるの面白すぎませんか? アスタロトならいいの?(妻子持ちフォラスの命が重いのか、アスタロトの命が軽いのか……)
  • 「後は力で」が挨拶になるメギドラル社会、何?
  • 改造メギドたちからヘイト集めまくってる上に格も下がり切ってるガギゾン、「どういう流れで仲間になるんだろう、泣くくらいボッコボコにしてからやないと示しつかへんで」とある意味マモン様以上に心配してたけど、もう既にグチャグチャですやん……。哀れ……。

バトル

 今回も相変わらずがんがん状態異常が飛んできますね。ユフィールか、せめてサレオスが欲しくなってきました。指名チケットでサレオス狙いますかね……。

メイドゥール

 どうにかリジェネバティンでやっつけられないかと何度もトライしてNはクリアできたんですが、多分暴奏ジズで普通に抜けたと思う……。

マモン様

 オセで前衛をなるべく素早く殴り倒した後、ウェパルでマモン様を削り切るという流れでどうにかN勝利。ザガン盾で単体攻撃は凌げるんですが、跳弾が痛いですね。フリアエのバリアである程度は延命できましたけど、耐えきれずオセが落ちたので完全勝利はならず。そのあとネクロ編成で完全勝利できましたが、H以降の勝ち筋は全然見えませんね……。せめてバーストユフィールがいればいいんですが……。

シナナイン

 2020年ラストを締める8章最後の敵の名前がシナナインでいいんですか?(いいと思う) 状態異常はフォラスのクラウンブラブナで対策して、ミノソンの万雷の加護が乗った雷ダメージで本体を攻撃。取り巻きには物体特攻グラシャラボラス覚醒スキルがよく刺さり、倒したいタイミングで確実に処理できたので楽でした。ボス攻撃はコランくんの奥義を採用しましたが、ミノソン自身の奥義で直接殴ってもよかったですね。例によってH以上だと強化解除がつくらしいので、どうしましょうね……。

*1:イヌーンやタイガンニールやインガセクトが必死に盛り立ててくれたおかげというのも多分にあるので、本当に感謝した方がいいと思いますけど……。

*2:フォカロルの過労状態とかは解消してくれそう

高橋克彦『水壁』

水壁 アテルイを継ぐ男 (講談社文庫)

水壁 アテルイを継ぐ男 (講談社文庫)

 久々に読んだ高橋さんの蝦夷もの。朝廷の圧政に苦しむ東北の蝦夷たちが一致団結、同じく中央に反感を抱く義士たちと手を携えて一矢を報い、たとえ最後には敗れようともその屍を蝦夷の未来への礎にしていく……。という、高橋さんの蝦夷もののいつものスタイルを踏襲しています。

 まあ本作で描かれた「俘囚の乱」は史実として「かなりうまくいった」ケースなので、いつものように主人公たちが壮絶に散っていくような光景が描かれることはありません。そこが物足りないといえば物足りませんが、その分すっきりした読み味にもなっていると思います。「蝦夷が対等の人間であることを朝廷に示し、専横の気を挫くための勝ち負けを問わぬ戦い」というテーマ(史観とも言う)は今回も通底しているので、『火怨』『炎立つ』『天を衝く』『風の陣』に連なる蝦夷シリーズとして、これも外せない作品ですね(よく見たらタイトルに火とか風とかあるので、その流れで水壁ってタイトルが出てきたのかもですね……)。

 史観といえば、高橋さんは歴史小説の名手でありつつも結構とがった史観をお持ちの方です。というかぶっちゃけビリーバーというか……。過去のエッセイや対談では、古代の地球に宇宙人が飛来して文明に影響を与えたとか、超科学文明どうしの戦争が後世に伝えられて神話の原型ができたのだとかいった仮説を大真面目に語り続けていらっしいましたし、そういったアイデアSF小説としてエンタメ化したのが『総門谷』『竜の棺』といったSF伝奇シリーズなわけです。

 もちろんジャンルによる切り分けは意識されてて、本作のような歴史小説で荒唐無稽な超常要素が飛び出すことはありません*1。でもよくよく見ると、「中央を追われ東北に住みついた物部氏蝦夷を後援している」とか「津軽には国外貿易で栄えた都市があって京にも負けない隆盛を……」といった、高橋さんが常から唱えている史観を知っていればオッと思うような要素は本作にも散りばめられていました。

 そもそも資料に乏しい蝦夷。中央視点の記録に偏るのは勿論のこと、人数の記録ひとつをとっても報告者の都合に歪められるに違いないということで、記録の空白や恣意性の余地をどんどん補って物語を仕立てていくのが高橋さんのスタイルです。中でもとりわけ資料の少ない「俘囚の乱」をとりあげた本作は、シリーズの中でも高橋さんの作風が一段色濃く出ているのかもしれませんね(今回は主要登場人物の大半がオリジナルっぽかったですし……)。

*1:「時代劇」寄りの伝奇要素のあるシリーズはまた別として……