NOVEL

『大いなる助走』

直木賞に落とされた腹いせにで描かれた怨念渦巻く一冊。という触れ込みで語られることが多いですけれど、彼らが登場するのは後半になってから。それまでは、同人ブンガク作家たちのどうしようもなさが嫌な感じの生々しさでねちねちと描写されていて、こちら…

『まだ殺してやらない』

アンバランスーな小説。冒頭で二転三転する状況に圧倒されて、スピード感あるなーと思ったのが第一印象。ところが第二章に入ると展開は急にゆっくりになります。その後も急展開はあるんですけど、そこから一気に加速するのかと思ったらそのまままた同じよう…

『ネフィリム 超吸血幻想譚』

「助けてー。早くしないとあたし、この人に犯られちゃうわー」 人知を超えた力を持つ吸血鬼VS人間が科学武装した吸血鬼殺戮組織VS吸血鬼を凌駕する第三の怪物ストーカー。『ΑΩ』みたいにファンタジーを無理やりハードSFの文脈で解釈したというよりも、古き良…

ストーリーは忘却され、印象だけが残る - 森博嗣『フラッタ・リンツ・ライフ』

Flutter into life。リンツて。このカタカナ表記だけでごはん一杯はいけます。じっと見てるとゲシュタルト崩壊起こしそうなタイトルですね! よく考えたらとてもエンターテイメントなんて呼べない筋書きですけど、それをエンターテイメントを読む時と同じ感…

『グラスホッパー』 - 伊坂幸太郎は子供を殺す

変な小説ー。んー、まあ伊坂さんの小説っていつもたいがい変なんですけど、今回あまり余分な要素がなかったのでそういう点が際立ってたかもしれません。伊坂さんは作中で特殊な倫理観を提示することが多いですけど、今回は特に複雑だったと思います。 たとえ…

最終美神戦役と書いてアフロディトゲドンと読ませる野間梓『兇天使』

また変な小説を読んでしまいましたのだ。織天使セラフィ、美神アフロディト、麒麟=悪竜ジラフ。そんな世界観を越えた世界中の神々の全面戦争の危機を描くという、自由すぎるお話です。最終美神戦役と書いてアフロディトゲドンと読ませるセンスが凄いです。 …

『エナメルを塗った魂の比重』 - 村上春樹のオシャレネタをオタクネタに交換したらきっとこんなかんじですよねー

(講談社文庫)" title="エナメルを塗った魂の比重 (講談社文庫)" class="asin"> これはひどいこれはひどい。気分を害したい時は、とりあえずこの人の小説を読んでおけば間違いはありませんね! 露悪の限りを尽くしたいという感じで、相変わらず胸の悪くなるキ…

『リンダリンダラバーソール』

筋肉少女帯デビュー期のバンドブームから、その終焉までを綴ったエッセイのようなもの。エッセイのようなものに見えますけど、名目上は小説扱い。オーケンさんの個人的な描写、特に恋人のコマコさんに関するエピソードは創作要素が強そうです。逆に当時の他…

『水滸伝(十九) 旌旗の章』

完結。長かった……とは言いません。この十九巻、本当にあっという間でした。 一冊読むごとに別の本を間に挟んでとやるのが面倒になって、十二巻から十九巻まではもう一気に読んじゃいました。でも、短い期間に八冊もの量を読んだという感覚はありませんし、シ…

『水滸伝(十八) 乾坤の章』

後半のあるエピソードで、このお話は完全に水滸伝という原典の「枠」を越えたなあと感じました。次シリーズへの布石となる楊令さんは別としても、もうこの人を原典の百八星に続く新たな一星として付け加えてもいいじゃない、とまで思ってしまう展開でした。…

『水滸伝(十七) 朱雀の章』

ウギャーッ! 楊令さんが小池一夫キャラみたいになってしまって私はとっても悲しいです! え、えれくち(全力で検閲されました はっきりと、戦の終わりが見えてきました。禁軍元帥の童貫さんが遂に兵を率い、勝っても負けてもここで終わりという局面に来てい…

『水滸伝(十六) 馳驟の章』- 史文恭は大変なものを盗んでいきました

漢たちの夢です。みたいな。 次の巻でラスボス童貫さんと本格的にぶつかりあうことになるので、事実上最後の小休止となる一冊。小休止と言いつつも、裏でやってることは調略暗殺の大合戦。道士妖怪の類が跋扈する伝奇小説でも、ここまでの凄味はなかなか出せ…

『水滸伝(十五) 折戟の章』

ここまで、危ういながら「勝つ戦」を続けてきた梁山泊の勢いも、官軍10万を相手にして遂に頭を打ちました。各拠点を一斉に攻撃され、一箇所でも破られれば即梁山泊自体の陥落に繋がってしまうという状況。相手が疲れきるまでひたすら「耐え抜く」しかないと…

『水滸伝(十四) 爪牙の章』

孫二娘さんと裴宣さんのエピソードにおったまげました。原典には当然ないでしょうし、梁山泊VS宋という本筋と関わるわけでもないですけれど、ここでこういう話を持ってくることに北方さんの人間描写に対する矜持のようなものが感じられました。 遂に官軍20万…

『水滸伝(十三) 白虎の章』

戦いの規模も、遂に官軍の総動員数十万なんていう数字が出てくるようになってしまいました。梁山泊軍も三万を越えるし、霹靂火秦明、双鞭呼延灼、大刀関勝という泡吹きそうな面子が将軍として揃い踏み。ここまでの経緯を思うと、もうヨダレでも出んばかりの…

『水滸伝(十二) 炳乎の章』

燕青さんがとにかく凄い一冊でした。頁数として考えると、実際に燕青さんが活躍してる場面はさほど多いわけではないんですけれど、読後に残る印象は強烈です。林冲さん、史進さんといった梁山泊でもスタークラスのキャラクターに匹敵する個性を、この一冊で…

『犬はどこだ』

かつていつぞや、行く先々たくさんのサイトでこの作品の話題が挙がっていた頃がありました。話題に乗り遅れること三年、今回の文庫化でようやく読めましたよ! 米澤さんにとって初めての「少年少女が主人公でない作品」だからでしょうか、それとも主人公が物…

『虎よ!虎よ!』

本屋さんで見つけた瞬間、自然に手が伸びました。にわかSFファンにとってはえらい人の話の中で聞いて想像することしかできなかった、幻と読んで差し支えない大古典の再販。本当にいい時代ですね。 すごい雑多さ。この雑多なアイデアの闇鍋状態は、バリントン…

『新世界 5th』

一年くらいかけて、一冊ごとに間を空けてゆっくり読みました。そのせいで、記憶がおぼろげでお話の全体を把握しきれなかった気がするのが残念です。でもこの記憶のあいまいさは、本作の漠然とした雰囲気によく似ている気もします。 二者が情事を交わすに際し…

『ハムレット』

ハムレット。野阿梓さんの『兇天使』を読もうとしたんですけれど、どうも元ネタとして『ハムレット』を使ってるみたいだったのでこちらを先に。 内向的な葛藤の果てに破滅したり自殺したりする人のことを彼に譬えるような表現に出会ったことが、過去に何度か…

『虐殺器官』

ようやく読みましたよ虐殺器官。人類という種に秘められた「虐殺」の秘密と、その秘技を用いて世界中で虐殺行為を引き起こして回る男を巡るお話。「虐殺の文法」という観念的にも見えるアイデアを中心に据えつつも、実際の描写から生まれるイメージは地に足…

批評するより感想書くほうが難しいと思った舞城王太郎『スクールアタック・シンドローム』

私たちは私たちの倫理観のあり方にある程度の定型を持っていますけれど、それに満足しないのが舞城さんなのかなと思います。虐め殺されたところから始まる友情とか、惨殺され続けることで確認する愛情とか。これは? これは? という風に、舞城さんは一筋縄…

『円環少女(4) よるべなき鉄槌』の業がどうしようもないので私はとても悲しいです

もう、「魔法使い」と「力を持たない人間」の"分かり合えないっぷり"が余りにも徹底しています。読んでいて、それがとても悲しいです。 無数の世界に、無数の世界観を持った魔法使いたちが生きているというのがこの作品の基本です。ここで言う「世界観」は、…

流水大賞『エレGY』とフリーウェアゲーム文化の話

フリーウェアゲームサークル「アンディー・メンテ」。その主要メンバーである泉和良さんの作品が講談社BOXの流水大賞で優秀賞を獲得したという報は、私にとって昨年最大の衝撃でした。それから半年、ようやくじすさん=泉和良さんの小説を活字で読むことがで…

『グランド・フィナーレ』

なるほど、こういう小説の書き方もありか、と目から鱗の落ちたような感覚がないでもなく。芥川賞だからというわけではないんですけれど、ストーリーから切り離した「文章」それ自体を用いて何かを表現しようとしている点で、意外と円城塔さんの作品に通じる…

『φは壊れたね』

壊れたねって「壊れ種」で、φという字は種がまっぷたつに割れていることを示してるんだろうなーとずっと思ってたんですけれど全然そんなことはありませんでした新シリーズ第一作。 森さんの今回のテーマは洗練なのでしょうか。薄味になったとは思わないんで…

『Boy's Surface』

書くといってた各話の感想を書き忘れてたので書きます。 Boy's Surface 表題作。恋愛についての過剰に普遍的なアレ。数学的概念を擬人化とかして人間の側に引き寄せるのでなく、数学的概念そのものにナチュラルに感情移入してしまうのが円城さんの強さなのか…

『水滸伝(十一) 天地の章 』

波間の章。随所に「暗殺」という言葉が登場する巻でした 。梁山泊側では、十傑集でお馴染み混世魔王樊瑞さんが「暗殺者」として公孫勝さんから大抜擢。青蓮寺側では、遂にあの史文恭さんが登場してしまいます。その役回りは、青蓮寺の放つ老練な間者にして暗…

『Boy's Surface』 - 円城塔ってそんな難しくないですよ

円城塔さんの作品に対してよく言われる「理解できない」「何を言ってるか分からない」といった評価は、正直ちょっと穿ちすぎなんじゃないかなと思います。世の中には「SF」というジャンルがあって、本書もそういう視点で読まれることが多いですけど、皆さん…

『水滸伝(十) 濁流の章』

全十九冊の折り返し地点ということで、これまでにも勝る激動の章。「VS双鞭呼延灼」の一冊です。 ここに来て、梁山泊軍がはじめて受ける"敗北"。この一大事は、今までにない鮮烈な経験として梁山泊に降りかかります。多くの同志が一時に命を落としますが、彼…